東海科学機器協会の会報

No.303 2004 冬号

[ サイエンスコーナー ] バイオ関連技術と私たちの生活 -新しい製品分野- No.3

(株)カーク 営業企画部 細谷弘美


第1回、第2回とDNAの塩基配列の解析方法、解析でわかることなどを主に書いてきました。同様の方法と各生物固有の塩基配列情報を組み合わせることで微生物汚染検出、品種の特定など生物そのものを対象にした品質管理・環境管理が行えることはご理解いただけることと思います。
さて、最終回の今回はタイトルの“~と私たちの生活”から少し離れ、1)生物研究分野で利用されてきた方法で環境分析を行う方法と2)マイクロ流路を利用した製品について触れます。

1)環境管理をバイオの手法で
 ダイオキシンやPCBなどの毒性物質の検出・測定に、ある種の生体物質のもつ“特異的な結合反応”を利用する方法が検討されています。その方法に利用されるのは「抗体」や「受容体」と総称される一群のタンパク質です。生体内では「抗体」は血液中に存在し、体内に侵入した異物に結合し除去する反応を引き起こすことに働き、「受容体」は細胞表面または細胞内にあって特定の物質と結合することで細胞内に酵素反応の連鎖を引き起こす働きをもっています。いずれも結合する相手を異にする多種類が存在しますが、それぞれが特定の相手としか結合しないために、例えばダイオキシン検出のプローブ(探し針)として利用することができるのです。ダイオキシンがプローブに結合したことを、発光法や蛍光物質を用いることのできる系に組み合わせ、高感度の検出器を用いて検出します。検出方法の工夫によってはポータブル化も可能でオンサイトでの検出も可能となります。いままで大きな機械を要するマススペクトロメトリーにて分析することが公定法となっていたダイオキシン類の分析ですが、コストを抑えて行うことができる簡易的方法として上記が認められる方向にあるようです。

2)マイクロ流路
 「ナノテクノロジー」という分野に政府が投資しています。(文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンターhttp://www.nanonet.go.jp/japanese/nano/)
原子数個分の大きさを基準とした物質を扱う技術、とその応用製品の開発で新しい市場を作ることを目指しています。半導体生産技術をもってナノテクノロジーに踏み込んでいったところにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems微小電子機械システム)があります。MEMSはプラスチック等の基板に極細い流路(マイクロ流路)を掘った加工製品です。そこでの液体の性状は私たちの生活サイズの流路でのそれとは異なるために、既存の方法とは全く異なった方法で物質の混合、抽出等を行え、それにより材料のスケールダウン、時間短縮などの効果が期待されています。バイオの分析・検査等は試薬コストが高く、スクリーニング等大量使用時のコスト削減は必須ですが、マイクロ流路を使ったシステムを利用できればその一助となる可能性があります。
 一例として先日紹介されたタンパク質結晶化の条件スクリーニングシステムに簡単に触れます。タンパク質結晶化はタンパク質の機能解析に必須のステップですが、この製品はボトルネックの工程である結晶化の溶液条件のスクリーニングシステムで、少量検体・多条件・短時間・簡便化を実現しています。手のひらサイズの基板上にマイクロ流路が刻まれ、8種までのタンパク質に対し最大96種の溶液で条件検討ができるようになっており(図)、送液や結晶は専用の装置で行うものです。

111 バイオの知見は新しい方法論を提供し、またバイオという分野への新しい製品の登場がまたれています。
最後にインターネットのURLを一つご紹介します。

http://www.bioportal.jp/openhouse/index.html

これは「次世代バイオポータルサイト」の試行版です。高校生以上の一般の社会人およびバイオテクノロジーの研究者が日本語でバイオ関連の情報が容易に入手できるサイトを目指したものです。バイオに興味のある方はどうぞ訪れてみてください。

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