東海科学機器協会の会報

No.306 2005 夏号

[ サイエンスコーナー ] 欧州ELV指令における 環境負荷物質規制について

(株)堀場製作所 黒柳 勇


1.はじめに
近年、あらゆる分野において環境への配慮が要求される中、自動車分野においては欧州連合(以下,EU)が使用済み自動車(End-of-Life Vehicles)に関する指令(以下,ELV指令)を2003年7月1日に施行しています。ELV指令は、使用済み自動車のリサイクル促進と環境負荷物質の使用制限を謳っており、指令への対応は非常に重要な課題となっています。日本においては、日本自動車工業会がELVで使用が制限される鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの4物質を中心に自主的取り組みで削減を実施していますが、具体的にどの様な方法で部材中の環境負荷物質を管理するのかは未確定な部分が多いのが現状です。
一方、EUは自動車以外の分野においても製品リサイクルの促進、環境負荷物質の使用制限を定めたいくつかの指令を策定しています。その中の一つが2006 年7月1日より施行が見込まれる電気・電子機器分野の製品を対象にしたWEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)& RoHS (Restriction of the use of certain Hazardous Substances)指令です。電気・電子機器分野においては、2001年末にオランダにおいて家庭用ゲーム機のケーブルから基準値以上のカドミウムが検出され、約130万台が一時出荷を差し止められると言う事件があり、それをきっかけに部材中の環境負荷物質を管理するための手法が検討されてきました。
その結果、現在,電気・電子機器分野においては、グリーン調達などの制度を通じて、
1. 図面・仕様書での環境負荷物質使用制限指示
2.受け入れ検査等での品質データ授受と実際の測定
3.サプライヤーの監査
などを組み合わせて環境負荷物質を管理する手法が一般的となっています。管理が書類だけの調査だけではなく部材の測定やサプライヤー管理まで行われるのは、実際に測定を行ってみると書類上は存在しない環境負荷物質が、さまざまな部材から検出されたためです。

2.規制の概要
ELV指令は,以下の項目を定めた指令です。
1. 2003年7月1日以降,鉛,水銀,カドミウム,六価クロムの環境負荷物質の使用を原則禁止
2. 環境汚染を防止するために解体前に行う処理内容を決め,リサイクル促進のための取り外し部品を指定
3.リサイクル可能率,リサイクル実効率を明示
4. 最終使用者の負担無しのELVの無償引き取り
5.加盟国のELV回収の確実な実施
環境負荷物質の使用制限に関しては、代替技術の状況が考慮されるものの、意図的な使用は認められていません。
従って微量であっても着色などの目的で規制物質を使用した部材は規制に抵触することになります。また、不純物のような非意図的に含有される物質の場合は、表1に示す最大許容値が規制値として適用されます。
表1 規制物質の最大許容値

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3.環境負荷物質分析に適した分析装置
現在、環境負荷物質の分析法としては、いくつかの手法が検討されておりISO及びIECで国際標準化も進められていますが、中でも環境負荷物質の迅速分析に最も有効な方法として検討されているのが「蛍光X線分析法」です。
エネルギー分散型蛍光X線分析法は,試料にX線を照射(1次X線)した時に発生する蛍光X線(2次X線)をX線検出器で検出し,試料に含まれる元素やその濃度値を測定する分析法です。
蛍光X線分析装置の特長は、
1.試料を非破壊で分析できる。
2.測定が迅速に行える。
3.操作が比較的簡単で誰にでも使える。
などの点にあります。

3.おわりに
今や環境負荷負荷物質の含有量は、品質の一項目として扱われるほど重要な情報になっています。実際に一部の自動車関連メーカーでは図面等に環境負荷物質使用制限の指示が始まり、検査工程での分析も始まっています。環境負荷物質の測定に関しては、今後も新たなニーズが予想され、より簡便で高精度な分析ツールを提供すること強く求められると思われます。
環境負荷物質の低減は、我々の生活環境を守り、次世代に残す良い環境社会を作る為に大変重要な事項です。科学機器の製造・販売を担当する我々は、関連メーカへより良い「分析装置」を提供することで、その作業に貢献していきたいものです。