東海科学機器協会の会報

No.307 2005 秋号

[ サイエンスコーナー ] 最 近 の P E T 事 情 ~がん早期発見を目指した取組み~

(株)島津製作所名古屋支店 医用エリアマネージャー 石原 孝之


昭和59年からの「対がん10ヵ年総合戦略」及び平成6年からの「がん克服10か年戦略」により、がんが遺伝子レベルの因子に起因していることが解明され、それを克服する為の研究が急速に進められている一方、がんの早期発見法の確立がなされ、治療技術も目覚しい進歩を遂げた。しかし、がんは昭和56年以降、依然として日本人の死亡原因の第一位を占め、現在死亡人数の3割を占めるに至っている。更に、今後有効な対策がとられない限り、がんの死亡者数は現在の約30万人から2020年には45万人まで増加すると言われている。
 このような背景より、平成16年より「第3次対がん10か年総合戦略」が策定され、①がん研究の推進、②がん予防の推進、③がん医療の向上とそれを支える社会環境の整備をテーマに強力に推進することとなった。その中で当社は、遺伝子レベル、分子レベルでの解析によるがんの細胞・組織システム等の解明を推進する為の先端科学技術を提供すると同時に、医療の中での画像診断に於いて、がんの早期発見に最も有効とされるPET(Positoron Emission Tomography)を国内メーカーとしては唯一自社開発し、多くの医療機関で使用頂いている。今回はPETについての最新技術を交え紹介することとする。
 PETは1970年代後半に開発され、「生態機能の画像化」という重要な役割を担ってきた。当初は中枢神経系、循環器系、呼吸器系、消化器系の生理機能の研究に用いられてきたが、近年がん検診に多く用いられるようになってきた。その後FDG(18F fluoro-D-glucose)によるブドウ糖代謝ががん検診に有効とされてから、国内でPET検診目的での機器整備が急速に増加し、東海地区(愛知、岐阜、三重、静岡)で2004年1月には11台であったPETが、2005年に14台、2007年までに約30台となる見込である。
又、従来FDGは各医療機関でサイクロトロンにより製造され、被検者に注入されていたが、2005年10月以降は製薬メーカーが国内に11箇所工場を建設し、その工場からFDGを供給することが認可されることとなり、デリバリーによる薬品供給が行われ、従来高額な設備投資が必要とされていたが、大きく軽減されたことにより導入が推進されると思われる。

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 当社PETシステムEminenceは、最大有効視野260mmで、高感度3次元データー収集を世界で初めて達成しており、検査時間の短縮(従来約20分を10分~15分に短縮)が可能となり被検者の負担を軽減し、更に少量のFDGでも鮮明な画像が得られる高感度検出器を搭載している為、被検者の被爆も軽減される。又、PET検査で得られた画像とMRI、CTの画像を重ね合わせすることにより、より診断能を向上させることができるシステムである。 Eminenceは今後更に進化をし、分子レベルの体内変化を画像化する分子イメージングを現在研究しており、がん撲滅に大きく寄与する装置を世界に提供する予定である。
 がん治療対策としての画像診断は、PETや乳がんにおける乳房X線撮影装置等、重要な位置づけにある。当社は従来からの医用及び分析技術と新たに開発する技術を融合し、がんの早期発見に役立つ機器を世界にご提供することを目指していく。

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