東海科学機器協会の会報

No.367 2018 夏号

かきゃあ あんたも ふるさと

㈱堀場テクノサービス 安藤 南

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 故郷を離れて早十年。その事実に気が付いたのは、実弟の結婚式にて新郎新婦のプロフィール映像を目にした時だった。

 時の流れの速さは勿論の事、歳月の重さに愕然としたと同時に、新たな門出を向かえた家族との日々を懐かしく振り返った。

 長野県安曇野市。緑豊かなその土地は、日本一のわさび農場を自慢とするメジャーな観光地だ。一方で、電車は一時間に一本、コンビニは歩いて三十分等、典型的な問題を抱えたいわゆる「ド田舎」である。そのド田舎が、自身の故郷だ。

 大学を卒業し、新社会人として訪れたのが愛知県名古屋市である。当時は彼の有名な『大名古屋ビルヂング』も初代の姿であり、地下鉄桜通線の終着駅は野並だった。“名駅”を訪れ、山の見えない景色に一瞬恐怖を覚えた事は今でも鮮明である。新生活は目まぐるしく、日々はあっという間に過ぎていた。人間とは順応するもので、初めこそ慄いたこの土地も、半年も経てば見知った場所のように思えてくる。そうなればその土地で新たな友人やコミュニティを得る事が叶い、自ずと「田舎」の事は二の次となっていた。

 弟の結婚が決まったのは昨年の春で、十一年連れ添った恋人との大恋愛の末である。間にもう一人妹がいるのだが、姉ちゃん’sを差し置いてのそのゴールインには、家族は勿論、親戚一同が両手を挙げて喜んだ。

 結婚式当日、挙式も無事に済ませ披露宴にて食事や歓談を愉しんでいる中、主役2人のプロフィール映像が流れ始めた。

 そこには、小さな妹と弟、若々しい両親、そしてかつての自分自身等、懐かしい光景が繰り広げられていた。 

 時の流れの速さは勿論の事、その歳月の重さに驚き、感動し、思わず目頭を熱くしながら、その瞬間もやはりあっという間に過ぎていった。

 妹と真っ赤な目で語っていたのは、未だに夢に出てくる家族の姿が、ちょうど映像の頃の姿ばかりだという事だった。ふと力を抜いた夢の中で、気持ちはかつての頃へと帰っていく。そんな夢から目覚めた朝は大抵、実家から戻ったかのような気持ちになる。

 「故郷を離れて早十年」。その事実に気が付き、そして妹との会話で感じた事は、故郷とはその「土地」だけを言うものではないのかもしれないという事だ。離れて暮らした十年も顔を見れば跳び越えてしまう。だが確かに存在するその十年で、互いに成長し、互いの存在を再認識したのだろう。

 山のない名古屋にも大切な景色や友人や仕事の仲間がいて、光は小さくとも故郷と同じ星を見る事が出来る。故郷とは、きっとその「土地」と、そこにいる家族や過ごした日々をも指すのだろう。

 そしてきっとここ名古屋が、自身にとっての「第二の故郷」である事は間違いがない。
 今回故郷である安曇野市を振り返ったと同時に、名古屋での日々を振り返った気持ちはいずれも懐かしいものであった。

 皆様もこの夏はぜひ、「故郷」を訪れてみてはいかがだろうか。