東海科学機器協会の会報

No.287 2001 秋号

かきゃ~あんたも メイク・セラピー。 顔は自分と社会をつなぐもの。

(株)ヤガミ 山 明代


7-14 社会人として働いている女性なら、たいていの人がしている化粧。化粧と聞くと、ついつい字のとおり“化ける”ことのように思われ、あまり積極的なイメージで捉えられない方がいらっしゃるのではないでしょうか。化粧をされる女性の中でも、礼儀としてする、おしゃれとして楽しんでする、と様々だと思います。私の場合は、服に合わせてとか、その日の気分でとか、おしゃれとして楽しんで化粧しているのですが、最近化粧について書かれた本を読み、その内容にとても興味を惹かれました。
 「メイク・セラピー 顔と心に効くリハビリメイク」(筑魔書房)という本です。リハビリメイクとは、火傷や交通事故の怪我、内科的な病気からできたあざなど、いずれもダメージを負った顔にほどこす化粧のことです。欧米では既に1970年代からイギリス赤十字などで、カモフラージュメイクという名称で存在し、特に最近は患者の社会復帰の一手段として医療の一環に取り込んでいる病院が増えているそうです。また、アメリカペンシルバニア大学では、その名も「外見センター」という名の医療施設があり、患者に対して「完治する」ことを「命に別条がない状態」ではなく「ごく普通に当然得るべき日常を実現した状態」と定義しているそうです。日本の場合は「命が助かったのだからそれでいいではないか」という考え方が強く、その点随分遅れをとっているとのことです。
 本を読んでいて驚いたのは化粧が効果を与える対象が、とても多くあることです。先の例に出した火傷、怪我の跡等形成外科の症状、内科の、美容外科の、皮膚科の、そして精神科の症状です。特に精神科の症状は、顔に症状が表れているものではないのに患者さんの心を開く一歩になる例もあるそうで、驚きました。また、本の筆者は老人ホームでおばあちゃん達にお化粧をすると、痴呆症で会話がうまくやり取りできなかった人でも笑顔が戻り世間話ができたり、体調が良くなったりするのを見たとのことで、化粧で痴呆症の人にも変化が起きるというところに興味を惹かれました。
 本の中にこんなエピソードが載っていました。最近めっきり見かけなくなったガン黒メイクの女の子達ですが、その子達の一人に、なぜそのようなメイクをするか聞いたところ、返事は次のようだったそうです。
 「私はブスだけどこのメイクをすれば皆同じ。美人もブスも、このメイクをすれば違いがなくなるんですよ。」医療の一環として、おしゃれとして、化粧する理由は様々ですが、共通することは、必死に社会に受け入れられたい、参加していきたいという気持ちがあるということではないか、と自分自身のことも含めて気づかされました。顔がすべてじゃないというけれど、誰でもいつ怪我や病気をするか予測できないもの。日本の医療現場でも化粧を重要視していってほしいと思います。顔は社会と自分をつなぐもの。今日も楽しく化粧しよう!