東海科学機器協会の会報

No.293 2002 冬号

ノーベル化学賞受賞となった田中耕一氏の タンパク質解析新手法について

(株)島津製作所 大藤 晋


受賞の対象となった「マトリックス支援レーザー脱離イオン化法:MALDI(Matrix Laser Desorption/Ionization)」は、特殊な金属の粉や油(超微粉金属コバルトとグリセリン)と試料(タンパク質など生体高分子)を混合したものにレーザーを照射することで、これまで分解しやすく(対象物が粉々になってしまう)、困難であったタンパク質などの生体高分子のレーザーイオン化を可能にする方法です。
 この方法を使ってイオン化されたタンパク質などを、イオンの飛行時間が質量によって異なることを利用して質量分析を行う方法が、「飛行時間型質量分析法:TOF/MS:(Time-of-flight Mass Spectrometry)」です。

MALDIとは
 MALDIにおけるサンプルは、多量のマトリックス(Matrix)と均一に混合された状態にあります。マトリックスは、紫外光である窒素レーザー光(波長=337nm)を吸収し、熱エネルギーに変換します。この時、マトリックスのごく一部(図のAnalyte の最表面~100nm)が急速に(数nsec)加熱され、サンプルとともに気化されます。 13-13



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 TOF/MSとは
 図に示されるように、様々な大きさの正イオンがサンプルスライド(Sample Slide)上で発生します。サンプルスライドと接地グラウンド(Ground)の間にはV0の電位差があるので、イオンは図の方向に引き出されます。引き出し後の各イオン速度Vは、エネルギー保存の法則より求められます。ここで、電位差V0は、どのイオンに対しても一定ですので、m/z値が小さい(軽い)イオンほど高速でドリフト空間(Drift Space )を飛行し、検出器(Detector)に到着します。