東海科学機器協会の会報

No.331 2010 夏号

〔サイエンスリレー第2回〕HPLC使用溶媒と環境負荷

各会員様は、それぞれ科学機器業界の一翼を担う、すばらしい商品をもっておられます。
そこから科学技術の側面を切り出し、情報提供するということで会員同士のコミニケーションも高めていきたい。
そこでお馴染みのサイエンスコーナーをリレー方式でつないで行きます!


ジーエルサイエンス㈱名古屋営業所長 伊藤宏樹


1.はじめに
 食品中の有効成分測定や健康診断などで体内物質量を測定する際に有効な分離分析技術である液体クロマトグラフ(HPLC)ですが、分離管(カラム)に試料を送り込むためには、各種溶媒が必要となります。一般的なHPLCシステムでは、メタノールやアセトニトリルなどが用いられ、排出された溶媒は廃液となり、産業廃棄物として焼却処分されます。そこで、今回はHPLCシステムとその使用溶媒量を考えて見たいと思います。

12-1

2.HPLCカラムと使用溶媒量
 一口にHPLCといってもその用途により、使用するカラムの大きさも様々です。今回は、一般的なHPLCシステムを例にとり、その溶媒使用量とその環境負荷について考え、また、その削減方法について検討してみたいと思います。
 一般的なHPLCとして、逆相分析を例にとり、またカラムサイズは内径4.6mmのカラムを例にとり検証していきたいと思います。
 流す液体(溶離液)は、アセトニトリル/水=50%、流速は1mL/minで、1日12時間、270日(54週×5日)として計算すると、使用溶離液量:194.4Lになります。また、アセトニトリルのコストを¥12,000/3Lとすると、¥388,800になります。溶媒を製造するためには、いろいろな環境負荷を与えるため、この量を少なくすることは、非常に重要ではありますが、環境負荷を考えた場合、もうひとつ忘れてはいけない問題があります。12-2それは、廃液の問題です。先記にもしたように、廃液は、産業廃棄物として、焼却処分されます。アセトニトリルを廃液処分するためには、NOx環境基準を満たすことが義務付けられており、100%アセトニトリル換算でアセトニトリル1Lにつき、10Lの灯油を加えて燃焼させることが義務付けられております。そのため、必要な灯油量は、972Lにもおよびます。二酸化炭素の発生量も灯油をC12の炭化水素として換算すると1,222㎥になり、地球温暖化にも大きな影響を与えます。
 そこでHPLCシステムをスケールダウンすると大きな環境負荷の低減につながります。使用するカラムの内径を2mmにするだけで、流速は0.2mL/minになりますので、この検証例に当てはめると、使用溶離液量は38.9Lになり、コストも¥77,760に削減されます。また廃液も1/5になるため焼却に使用する灯油量も194Lと同様に少なくなります。

3.溶媒削減を実現するシステム
 このように、カラム内径を細くすることにより、大きな溶媒削減が実現でき、環境負荷低減に役立ちます。しかし、内径の細いカラムは、カラム外拡散の影響を受けやすく、デッドボリュームにより、クロマトグラフのピーク形状が悪くなり、分離や感度に悪影響をもたらします。そのため、内径の細いまたは長さの短いカラムを使用する際には、システムを最適化する必要があります。具体的には、配管の長さを短くし、検出器のセル容量を少なくするなど、検出されるまでの間に試料が通る場所の容量を削減する必要があります。

4.まとめ
 今では、さまざまな研究開発で使用されているHPLCも、配管や検出器セルボリュームなどに気を使い、使用するカラムのスケールダウンを行うことで、溶媒使用量を大きく削減するだけではなく、廃液及びその処理を軽減することで環境負荷の低減に大きく役立つことができます。

131