東海科学機器協会の会報

No.348 2013 冬号

TKK見学行事 財団法人鉄道総合技術研究所 風洞技術センターを見学して

見学会実行委員長 八代 智

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 TKK見学行事として、11月26日に、財団法人鉄道総合技術研究所風洞技術センター(以下、米原風洞と称す)を見学しました。平成20年11月に見学しましたが、今回は2回目の見学となりました。参加人数は20名様でした。

 財団法人鉄道総合技術研究所は、JR各社の負担金及び民間からの受託試験料及び補助金によって運営される、旧日本国有鉄道が行っていた研究開発を継承する法人です。その研究所では、わが国の鉄道事業の定常的技術課題である「騒音」「塩害」「雪害」などについて、課題別に各地に研究所が設置されています。米原風洞は、騒音課題のために同研究所が、平成8年に滋賀県米原市のJR米原駅に隣接する場所に設置した大型低騒音風洞実験設備です。風洞設備は国内外に設置されていますが、この風洞は下記3点の特長があります。

A)世界に類を見ない低騒音性能(暗騒音75dB(A)−300Km/h)。
B)国内大型低騒音風洞では最高の風速性能。
C)精度が高い実走行を模擬するための大型高速移動地面板を装備(主として地上付近を走行する輸送機(列車、自動車など)を測定対象として特化した構造)。

A)項の補足をします。風洞で風を生じさせる際に、風洞設備自体から発する騒音が大きいと実験したい試験体から発生する音が精度よく採取できませ
ん。そのため実験設備からの騒音(バックグランド)を非常に低くしています。特殊な吸音コンクリート等を使用するなど工夫した構造となっています。わが国独自のハイテクが駆使されています。

C)項の補足をします。米原風洞は、地上面付近を高速走行する輸送機(列車、自動車など)が試験対象です。試験体は風洞の中で静止しているため、実際の走行状態を再現するためには、地面を高速で動かす必要があります。列車や自動車は、走行中に自らの底面と地面との間でも風の抵抗を受けており、騒音が発生します。米原風洞では220Km/hの走行が再現できます。このような優れた性能を持つ米原風洞での年間総試験可能日数は220日ですが、年平均280件程度の試験依頼があります。日本のような人口密度が高い地域において高速走行する輸送機にとって、騒音が如何に重要課題であるかを示しています。騒音を解決することは、空気抵抗の低減を意味するため、省エネルギーにもつながります。具体的事例としては、新幹線や超伝導リニアモーターカー高速化に伴う騒音低減、トヨタ自動車の「セルシオ」の低騒音化、中部電力と共同開発をした風切音の少ない電線などがあります。

 米原風洞は、国産技術で建設された、わが国のハイテク象徴の一つです。わが国のハイテク開発を裾野で支えるTKK会員各社の役割は、今後も大きいものと確信します。

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