東海科学機器協会の会報

No.352 2014 秋号

マイクロハクマク圧力センサのご紹介

~第26回中小企業優秀新技術・新製品賞
中小企業庁長官賞及び産官学連携特別賞受賞に際し~

名古屋科学機器㈱ 岡野 裕史

今回、弊社が代理店を勤めさせていただいております大阪の真空機器メーカーの株式会社岡野製作所殿が、中小企業長官賞を受賞されました。そこで、東海科学機器協会のサイエンスコーナーに簡単ではございますが、ご紹介させていただきます。

生活の中にあふれる真空技術

突然ですが「真空」という言葉にどんなイメージがありますか?難しそう?自分たちとは関わりがない?考えたことがない?・・・他にも色々とあるのではないでしょうか。「真空」とは文字通り「”真(まこと)”に”空(っぽ)”」と思いがちですが、日本工業規格(Japanese Industrial Standard=JIS)のJIS Z 8126 群において「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」と定義されています。この定義に従うと、コーヒーを新鮮に保つためのアルミパック、掃除機、もっと広義でいえば吸盤でさえも「真空の状態」を使っていることになります。

次に工業製品について考えてみましょう。先に書いた「真空の状態」では通常の大気圧との圧力差を利用しているだけですが、工業製品を生産する際はその「真空の状態」の”質”と”量(圧力値)”が問われることになるのです。半導体をはじめとして、ただ単に真空にするだけではモノはできません。モノを作るためには圧力(真空圧力)をコントロールし、モノづくりに必要な材料・状態を作ることが必要になってきます。さらに、信頼性の高い製品を繰り返し生産するためには、必要な材料・モノ以外にはなるべく何も無い状態、つまり「キレイな真空」が求められるのです。

図.各種真空圧力センサのサイズ比較

図.各種真空圧力センサのサイズ比較

 
キレイな真空と真空計測の方法

ではキレイな真空を作るためにはどうすればいいのでしょうか?十分にきれいな真空であるかどうかは計測しなければわかりません。そこで問題が出てくるのです。圧力の単位パスカルは単位面積当たりにかかる力(=N/㎡)です。力を生み出すのは気体自身です。大気圧は概ね100kPaであり、0℃において1㎥あたりの気体分子の
個数は約3×1025個(注1)もあります。密閉容器にある気体をポンプなどでどんどん排気してやると中の気体が減り、壁を押す力が減っていきます。では気体がなくなったのかと言えばそうではありません。例えば同じ温度(0℃)で圧力が十万分の一(=1Pa)になったとしても、気体分子は計算上約3×1020個もあるのです。存在する気体の数(つまり圧力)を何らかの方法で計測してやらなければなりません。このため、真空計測にはその圧力領域に応じて複数の計測機器が存在し、多くの場合はそれら複数の計測機器を併用しながら、十分に低い圧力(気体はあるがモノづくりには影響がないほど低い圧力)やモノづくりのための圧力(成分のわかったガスを導入して作りだす)そして大気圧を計測するのです。真空圧力センサの方式にはその圧力領域に応じていくつかありますが、弊社のマイクロハクマク圧力センサは気体の熱伝導率が(ある圧力領域で)圧力に比例するという特性を利用した「熱伝導型センサ」です。

真空計測にはもう一つ課題がありました。モノづくりにおいてはモノづくりをしている箇所(ワーク)の周りは「動的な真空」(つまりガスの流れなどが存在する)のため、圧力が不均一な状態が存在すると考えられます。しかし、従来の圧力センサではサイズ的に大きく、ワーク近傍での圧力の実測ができず、シミュレーション等を用いて圧力値を推定するほかには方法がありませんでした。

図.マイクロハクマク圧力センサ外観

図.マイクロハクマク圧力センサ外観

 
マイクロハクマク圧力センサについて

弊社は水銀とガラスを使った真空計測機器を長年製造・販売して参りました。時代の流れに応じてデジタル真空計も製造・販売しておりますが、キーになる圧力センサ自身は他社から購入していました。この状態から脱却するため、どうしても自社独自でのセンサを造りたいということで、大阪府立産業技術総合研究所(大阪府立産技研)、小川先生、美馬先生の力を借りながら、「マイクロハクマク圧力センサ」の研究開発がスタートいたしました。センサの心臓部である薄膜材料(特許を取得)に関しても、研究開発スタート当初は全く知識がなく、大阪府立産技研の研究生制度やインキュベータ施設を利用し、勉強しながらのスタートでした。新技術開発助成や戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)、ものづくり試作支援等の公的助成をいただきながら、ようやくお客様に使っていただけるところまで製品化が進んでまいりました。平成25年度において、その成果を超モノづくり部品大賞(電子部品分野)、大阪府知財顕彰(準グランプリ サーミスタ材料特許)、中小企業優秀新技術・新製品賞(中小企業庁長官賞・産官学連携特別賞)の受賞といった形で評価していただきました。これらの賞や公的助成をいただけたことは弊社としては大きな喜びであり、関係者・多大なご協力をいただいた皆様方に感謝申し上げると共に身の引き締まる思いを感じています。

マイクロハクマク圧力センサの特長は、小型・高感度・高速応答・耐環境性にあります。単に小型化すればいいのではなく、センサとしての機能が十分発揮されなければなりません。また、高感度だけを求めると高速応答性が犠牲になるなど、性能としてどのあたりが適正かを見極めることが重要であり、それは用途によって異なります。弊社が開発したマイクロハクマク圧力センサは、それらの機能について長年研究開発を続け、今まで計測が不可能であったワーク近傍に設置する事で、リアルタイムでの
計測が可能です。さらに、高感度であることから従来の熱伝導型センサよりも計測範囲が広がり、複数個設置しなければならなかった真空計測機器を、1つで大気圧から到達圧力確認、モノづくりでの圧力計測にまで使用可能です。

図.マイクロハクマク®センサによる測定可能な領域の拡大

図.マイクロハクマク®センサによる測定可能な領域の拡大

 
マイクロハクマク圧力センサの今後
マイクロハクマク圧力センサは研究開発が始まってから10年以上になります。これほどまでの時間をかけたにもかかわらず、ようやく製品としてのスタートに立ったのです。克服しなければならない課題はまだまだあります。また、お客様に使っていただいた上で見えてくる課題もまだ多くあることでしょう。現在はマイクロハクマク圧力センサを真空環境内で用いる熱伝導型センサとしてお客様に提供していますが、センサの心臓部であるサーミスタ材料自体は真空計測以外にも使用できると考えており、他用途への展開も視野に入れ研究開発を進めています。

注1
乾燥した空気(分子量29と換算)1 Lの重さは、セ氏0度、1気圧(1 atm)のときに1.293 gである(出典:Wikipedia)
文責:岡野夕紀子(㈱岡野製作所)