東海科学機器協会の会報

No.374 2020 春号

かきゃあ あんたも 私は、猫背である。

株式会社尾張屋 花沢 亮治

 私は自他ともに認める猫背だ。物心ついた頃からすでに猫背だった。いや、もしかすると生まれた時からずっと猫背なのかもしれない。猫背である事を誇りにすら思っていたのかもしれない。
 少年時代、母親に、「背中が丸いと、おじいちゃんみたい。背筋を伸ばしなさい。」そう言われる度に私は、「別に困ってないし、僕はおじいちゃんでもいいの。」と返す。すると母親は、呆れ顔で何も言わなくなる。その度、私は心の中でこう思う(背筋を伸ばしていたら、疲れるし、なんか威張ってそう。猫背の何が悪い。普通にしていると猫背になってしまうのだから仕方ない)と。
 社会に出てからは、猫背が歓迎される社会なのかと思っていた。事務所で座る椅子は柔らかく、背もたれ部分は、もたれると可動し後傾する。猫背にフィットしやすいように!車のシートも、カーブ形状でヘッドレストは少し前傾し、やはり、猫背にフィットしてくる!まさに社会が私の猫背を歓迎しているかのように思えた。学生時代の直角で固く窮屈な椅子とは全く違う。「あー楽だ。なんて素晴らしい社会なのだろう。」と。
 そんな私も子をもつ親になり、最近息子が少年野球を始めた。学生時代の友人に息子の野球の事で、助言を求めると、息子の立ち姿を横向きで撮影して送ってほしいというのだ。私は、息子を横から撮影し画像を送った。友人から帰ってきた返事は、「つま先で立っちゃってるね、頭の位置も肩の位置も本来そこじゃない。」と。私は改めて息子の画像を見ると私の少年時代の面影があった。まさしく、子は親の背中を見て育ったのだ。私の猫背が伝染している事に愕然としながらも、私は友人に、「ありがとう。やっぱ猫背はダメだね。スポーツする以前の問題だな。」と返信すると、今まで社会が猫背を歓迎しているのだという誤った認識を打ち砕いた瞬間だ。
 実は、少し前からうすうすと気づいていたのだ。テレビで見るスポーツ選手の多くは、姿勢が良い。横から見ると「くるぶし、腰、肩、頭が一直線」に並んでいる状態だ。私と息子の姿勢は、「頭、肩が前に出て、肩から腰に掛けて緩やかに湾曲している」状態。友人に指摘されるまで、半信半疑ではあったものの、指摘され確信に変わったのだ。
 その後、私なりに猫背による弊害を調べてみた。呼吸が浅くなり、緊張状態になりやすい。首に負担がかかるため、肩こりになりやすい。腰への負担も大きく腰痛を引き起こす。などなど、悪いことのオンパレード。もちろん、スポーツをする際の動作に弊害になる事が多々ある。やはり姿勢は大事なのだ。そのことに息子を通じて気づく事になるとは、思いもしなかった。
 新年号ということも有り、私は、今年一年良い姿勢で過ごす事を目標としたい。30数年間、共に歩んできたものを変えるのは、忍びない気持ちでいっぱいだが、「私は、猫背である。」をそろそろ完結させたいと思っている。息子と共に。