東海科学機器協会の会報

No.376 2020 秋号

「名古屋港水族館」の予備知識

公益財団法人名古屋みなと振興財団 営業広報課 志賀 良太
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コロナをきっかけにしたファンの皆様のご支援
に感謝

 新型コロナウイルスの影響で名古屋港水族館も3月2日から84日間の長期休館をしました。平成4年の開館後初のことです。集客施設にとって繁忙期の春休みやGWの入館料収入もゼロ。巨大な館の維持費が莫大でも、生き物たちに影
響させるわけにはいきません。エサ代だけでも年間8千万円を超えます。スタッフ一同、努力と工夫を続けました。多くの方から「私にも何かできることはないか」と声援も受けて7月から始めた初のクラウドファンディング2か月間のご支援はなんと2,000口の1千万円。当館ファンの皆様のお気持ちには感謝しかありません。

残念ながら東海科学機器協会様をお迎えできな
かった代わりに

 5月25日の営業再開後も、第2波の影響もあって今も来館者は激減しています。その団体キャン
セルリストに毎年お越しいただいている貴協会のお名前を発見しました。こんな状況なので仕方
ないと思う矢先、本会報編集担当の方から寄稿のお誘いをいただきました。どんな観光地でもそ
うですが、些細な豆知識があるだけで楽しみ方の幅が広がるものです。そこで折角の機会ですので
次回、皆様がお越しになる時、水族館にお越しの方がよく口にされる「いやされた~」だけで
終わらない用の豆知識を少しだけですが紹介してみます。

日本は水族館大国
 日本は実は世界一の水族館大国です。飼育生物が150種類以上だとか、国内の多くの動物園
や水族館が加盟する団体のメンバーであるとか、統一した数え方は定まっていないのですが、国内
には約100の水族館があると言われています。一方で世界には430の水族館があるという説も。
中国が数で猛迫中との話もありますが、日本の水族館の数は世界の4分の1に当たります。
 理由は、やはり四方に広がる海に日本人が馴染み深いからでしょう。水族館に欠かせない海水
が引き込みやすいことや、飼育技術が断トツに高いからという話もあります。ちなみに当館の水槽
やプールの水は、開館後当分の間は遠く太平洋の黒潮から船で運んできた海水を使っていました
が、今はろ過技術の飛躍的進歩などによって当館脇の取水口から吸い上げた名古屋港の海水を巨
大なろ過装置などを使ってきれいにして使っています(ほんの一部の例外を除く)。
 そんな数ある水族館には公営と民営があります。当館は公営です。愛知県と名古屋市、そして両
者が母体となる名古屋港管理組合という特別地公益財団法人名古屋みなと振興財団 営業広報課 志賀 良太
方公共団体の3団体によって建てられました(現所有者は名古屋港管理組合)。公営水族館の傾向
として規模が大きく立派なことが多いです。当館もその一つ。日本一の延べ床面積でゆったり見え
ます。これを利用しない手はありません。

年間200万人来る名古屋港水族館も空いてい
る日はさらにゆったり見えます

 開館28年目の昨年で5,000万人、年間では約200万人の方にお越しいただいています。楽しみ
方は様々。家族、友達、遠足や修学旅行の学校団体、会社や所属組織のイベント、年間パスポート
を使って年に何回もお越しの常連の方、最近はインバウンド(訪日外国人。特に中国、台湾、香港、韓
国の方)も増え、中国語、韓国語が館内に飛び交うことも多くなりました。
 年間営業日が約330日。日割りすると6,000人/日ですが、超繁忙期のお盆休みは1日で2.5
万人と大変混み合います。猛暑日が増えた近年、確かに水族館の涼しさは際立ちます。ただそれは
単にエアコンの効果だけではありません。魚やイルカたちが心地よく過ごせるように水温はそれ
なりの電気代をかけて冷やします。アクリルガラス越しとは言えそんな冷たい水の塊に包まれる
空間はやっぱり人気なのです。 そんな人気の水族館にも「結構空いている感」
のある4,000人/日を下回る日が年間営業日の
4割くらいあります。そうした日はやはり平日になりますが、閑散期の10~2月は土日でもそこまで混んでいません。また、5月末の土曜日は名古屋
市内小学校の運動会の集中日で、週明け月曜日が代休のため、臨時営業しています。PR下手も手
伝い意外に知られていないので空いています。機会があればそんなタイミングにお越しになれば
普段と違う独り占め感も満喫できます。

おすすめイベント筆頭を支える大型施設

 人気イベント筆頭はイルカパフォーマンスやシャチの公開トレーニングです。ここでも見る前に知ってください。舞台は幅60m、奥行き30m、
最大水深12mのメインプール。実はここ、日本一大きなプールです。「あれ、沖縄の美ら海水族館や
大阪の海遊館のジンベエザメが泳ぐ水槽の方が日本最大なのでは?」と思う方もいるでしょう。確
かにガラスの表面積が大きかったりすることはあります。ただ、あちらは魚が泳ぐ「水槽」、こちらは
イルカやシャチといった鯨類(哺乳類)を飼育する「プール」です。「プール」は水族館業界では「水
槽」に含まれません。大量の水の器という点では一般のお客様にはあまり関係ないですが、業界の中ではこうした微妙なルールに従っています。今
度少し注意して他の水族館の宣伝文句も見てください。「日本最大」と言い切らず「日本最大級」
などと言っていることが多いと思います。そして結論ですが、このメインプールは「プール」「水槽」
をひっくるめた器として堂々の日本一の大きさ(水量13,400トン)になります。こんな大きい
プールだからこそイルカやシャチが伸び伸びと泳ぎ回る姿も、勢いたっぷりの大ジャンプなどをご
覧いただくことができるのです。
 ご来館時にお時間が許せば、このプールでのパフォーマンスを別の回にぜひ屋内2階の水中観察
窓からもご覧ください。窓の幅はなんと29m。日本最大のプールだからこそできる最大水深12m
まで潜ってからのイルカのジャンプ前の助走(助泳?)は結構、迫力がありますよ。

名古屋港水族館から始まった行動展示の元祖
「マイワシのトルネード」

 南館の人気イベント「マイワシのトルネード」の始まりの物語です。魚偏に弱いと書いて「鰯(いわ
し)」。群れて泳ぐこのマイワシの大きな群れを2007年の黒潮大水槽リニューアルで搬入後、餌を与えたときでした。マイワシたちが興奮し、通
常より速いスピードでいっせいに泳ぎだしたのです。竜巻のようにエネルギッシュで、桜吹雪のよう
に美しいその様子に思わず飼育員もびっくり。これをきっかけに「トルネード」が誕生し、マイワシ
という小さな魚が一躍主役となりました。こうした生き物の行動そのものを展示することを文字
通り「行動展示」と呼び、以後こうした行動展示が全国に広がっていくきっかけとなりました。 ちなみに当館の「500種50,000点」の展示生
物のうち35,000点がこのマイワシで、1年に1回程度15,000匹を追加搬入してダイナミックな
トルネードを巻き起こす群れを維持しています。

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言い足りないポイントをずらっと紙面の許す限り
列挙すると

 とここまで話して気づきました。いただいた紙面が足りないことに。なので他の主なチェックポ
イントを駆け足でご紹介します。・1992年の開館当時の初代の内田至館長は世
界でも名前を知られたウミガメ博士。それもあって水族館南館の東側に無料で見学できるカメ類
繁殖研究施設が併設されているほどウミガメ研究が盛ん。現在飼育しているのはいずれも絶滅危
惧種のアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種。素人目には同じようでも見分けるポイントあ
り。アカは名前のとおり体色が赤っぽい茶色で頭がずんぐり大きい。アオは青っぽいというか赤み
がなく頭が小さいスマートなシルエット。タイマイはやや小型で、甲羅が屋根瓦を重ねたように見え縁がギザギザ。また英名がHawksbill turtle
(ホークスビルタートル)であるとおり、口が鳥のタカ(ホーク)のクチバシ(ビル)の様に尖ってい
るので見分けがつく。食べるものも順に肉食、草食、雑食。違いを探して分かった上で観察すると
面白さや好奇心も倍増!
・またアカウミガメは23年間も館内の人工砂浜で産卵し、たくさんの子ガメが誕生。
・3年ぶりに誕生した計100匹以上(8月末時点)の子ガメのお母さんも当館生まれ。おばあちゃん
も健在で3代とも現役で展示中。お父さんも当館生まれの可能性あり。秋にもDNA鑑定してそうと確認されれば両親とも水族館生まれのカメ誕
生として世界初の快挙に。
・無料(入館料のみ)の上映施設がある点で全国の水族館でもかなり珍しいシネマ館(南館内)は
穴場スポット。縦12m×横22mの巨大スクリーンが350席の客席の前にそびえるように広がり
通常の映画館では味わえない迫力。ドキュメンタリーから人気アニメまで厳選された作品の長さも30分程度なのでお子様も大満足。
・当館は漠然と色々な海域や生物を展示しているのではなく北館・南館ごとに展示テーマあり。北
館のテーマは「ふたたび海へもどった動物たち」。人と同じ哺乳類でも自分たちに適した環境を求
めて陸上から海に戻っていった鯨類を展示。骨格標本(レプリカ含む)充実し過ぎの声も。南館の
テーマは「南極への旅」。水族館を出た正面東側にあるオレンジ色の船は「南極観測船ふじ」。日
本の2代目の南極観測船の本物。初代南極観測船宗谷と違い初めて南極観測専用仕様で設計。
南極の厚い氷もバックして勢いをつけて突進し乗り上げた氷を上から叩き砕いて進む方式。そん
な南極に向け日本を出発した途中に通過する5つの海や水辺環境を紹介しているのが当館南
館。おそらく現在の来館者の多くが意識していな
いお話の一つで、知ると南館の見え方が変わる。・南館のペンギン水槽は南極の光環境をそのま
ま再現。ただ同じペンギンなのにケープペンギンだけは北館2階から降りられる屋外の「しおかぜ
広場」に。南アフリカのケープ地方のペンギンで名古屋の蒸し暑い気候も許容できる。
・海で襲ってくるもの知らずなことから「海の王者」と言われるシャチと、世界最大のペンギンで
あるエンペラーペンギンの展示は、ともに全国で2園館のみ(シャチは鴨川シーワールド(千葉
県)、エンペラーペンギンはアドベンチャーワールド(和歌山県)。両館とも名古屋から行くととても
遠い)。
・公営の水族館であることもあり教育啓蒙や研究繁殖の活動も盛ん。たくさんの教育プログラムや
大学などとの学術交流協定を結んだ共同研究、世界的評価を受ける繁殖研究実績も多数。
まずはホームページから。そして足を運んで。「海の仲間に会いに行こう!」
 などなど。本当に駆け足になってしまいました。しかも伝えきれないことばかりで、さらにコロナ
禍で中止のイベントなども紹介しています。本当は写真も添えたかったのですが。でも大丈夫で
す。5月25日の営業再開日からリニューアルした当館公式ホームページやSNS(Facebook、
Instagram、Youtube)でも情報発信しています。まずはチェックしてみてください。
 いかがでしたか。当館のこと、少しは気になっ
てもらえましたか。今年は皆様をお迎えできな
かったですが、ぜひ次は実際に足を運んでいただき海(一部は川など)の仲間たちに会いに来てください。ご家族や友人とでも、お一人でも、そしていつでもスタッフ一同お待ちしております。

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