東海科学機器協会の会報

No.378 2021 春号

サイエンスコーナー 補助金を活用し、新しい事業を

株式会社 広島 装置エンジニアリング事業部 営業課 係長 木嶋 裕和

 脱炭素やAI、5G、電気自動車など市場ニーズが大きく変化するなか、コロナの影響もありイノベーションが求められています。
 自動車は従来の化石燃料であるガソリンから、電気自動車へ大きく方向転換し、自動車産業をリードするEUは、脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」掲げ、2050年までの気候中立〔二酸化炭素(炭素)排出実質ゼロ、カーボンニュートラル〕の法的拘束力のある目標を発表しています。東海地区は自動車産業が主流であり、電気自動車へシフトする事により、製造部品は変化し生産量は減少し、製造過程にて発生する二酸化炭素は脱炭素の目標として削減する必要があります。
 コロナの影響では、面談する営業が困難となり、MROなどのシステムにて、購入までのリードタイムの短縮、購買部門の業務の合理化が進んでおり、インターネットの利用により新たなソリューションが市場を創造しています。
 しかし、視点を変えれば、経済低迷により成熟市場のレッド・オーシャンから抜け出し、競合のいないブルー・オーシャンを切り開くチャンスと言えます。大きな逆境の後には多くのベンチャー企業が生まれており、その様なイノベーションはどの様に生み出されていくのでしょうか。
 イノベーションとは、新しい技術や考え方を導入して、新たな社会的価値を生み出す事であり、定義には技術分野以外での革新や、会社が抱える問題を解決する新たな手法も含まれます。会社が安定した経営を維持するため、欠かせないアプローチとして認識されることが多く、競争が激しい状況にて順調に収益を上げ会社をより長く存続させるため、常にイノベーションを行い、時代のニーズに合ったサービスや商品を提供する必要があるとされています。
 イノベーションは、ヨーゼフ・シュンペーターにより5種類に分類されています。
1.プロダクション・イノベーション
新製品によって革新をはかるアプローチを指し、これまでなかったような新しい製品を開発することで、例としてiPhoneやスマホの新機種などが挙げられます。
2.プロセス・イノベーションベーション
仕事の場に新しい生産方法を導入し、従来とは違った生産ラインの導入にて業務の効率をアップしたり、生産性を高めたりすることが該当します。
3.マーケティング・イノベーション
新しい販路を開拓するなど、市場を新たに生み出すアプローチを指し、将来の顧客になりうる見込み客を把握し、自社をアピールすることが該当します。
4.サプライチェーン・イノベーション
資源や原料の供給源を最適化し業務に活かすアプローチであり、資源や原料の調達から製品を消費者に提供するまでのプロセスを一新し、経営に大きな影響を与える事が該当します。
5.オーガニゼーション・イノベーション
組織そのものをリニューアルし、プロダクション・イノベーションなどを現実に実行するための組織づくりのことを指し、業務提携や組織の再編などはが該当します。
 自社の資産と強みから、どの様なイノベーションに関わることだ出来るでしょうか。経済産業省は、イノベーション政策として、以下のように示しています。
 「経済産業省では、イノベーションの創出を通じた我が国の産業技術力の強化に向け、民間企業などにおけるイノベーションを促進する環境整備を進めるとともに、国においても知的資源の充実のための様々な取り組みを進めています。」※経済産業省HPより
 経済産業省所管である、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「イノベーションを加速しスピーディーに正解を社会へ」と掲げており、募集する公募内容は、経済の課題や影響を与えるイノベーションと捉えることができます。
 各社の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報・営業」を活用し、生業にて起こせるイノベーションの一つとして、プロジェクトへの取組があります。
 科学機器業界は、イノベーション源泉となる、研究所、開発部、大学等と継続的な信頼関係があるため、生業の延長線にてイノベーションを起こすベースは整っており、手段を増やすことでチャンスに巡り会える可能性が高いと思われます。
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助成金採択例(株式会社広島)
■あいち重点研究プロジェクトⅡ期
○テーマ:E1 燃料電池フォークリフト用充填装置と水素製造触媒装置の開発
○期間:平成28年度から平成30年度
燃料電池フォークリフト用の充填ステーションを運搬可能なパッケージ設備として開発し、安価なステーションを安定的に市場へ提供することが可能となりました。都市ガスより水素を製造する触媒を研究開発しました。
助成金採択例(株式会社広島)
■サポイン事業
○テーマ:平成27年度採択車載センサー向け高性能コーティング膜製造用スパッタ装置の開発
○期間:平成27年度から平成29年度
高機能で成膜速度を向上させたHIPIMS電源を搭載した最新スパッタ装置の開発

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補足
 脱炭素社会とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を防ぐために、化石燃料由来である石油や石炭から脱却する事です。太陽光やバイオマスなどの再生可能なエネルギー利用を進め、社会全体を低炭素化する持続可能な社会を脱炭素社会という。実現するためには、一人ひとりが省エネなどの環境対策に取り組み、再生可能エネルギーの利用や、CO2回収貯留技術(CCS)や、メタネーション(CCUS)の確立が必要とされている。
 日本は、追加経済対策として、管総理が注目する「2050年までに温室効果ガス排出力実質ゼロ」の実現に向け、2兆円の基金を創設する方針を盛り込み、エネルギー分野などで研究開発を進め、目標達成に不可欠な技術革新を後押しするプロジェクトが発表されました。
また、令和3年度予算案には、菅義偉政権の看板政策である行政や社会のデジタル化に向け、1兆円規模の予算が盛り込まれ、地方や教育、企業など幅広い分野でデジタル化を促し、さまざまな手続きが非対面で完結する、効率的な社会を目指しています。  
その他として、日本政府プロジェクトとして、「大学支援の基金創設へ 3年後めどに10兆円規模を目指す」と発表されており、大学の国際競争力を強化し、世界トップレベルの研究開発を後押ししようと、政府は、若手研究者の人材育成や研究施設の整備を支援するための基金を新たに設ける方針を固め、産官学で資金を調達しながら、3年後をめどに10兆円規模を目指したいとしています。
・メタネーション
気候変動問題の要因とされる化石燃料由来のCO2排出に対し、2020年度以降の実現可能な削減目標として、2030年度までに2013年度比26%の削減目標が掲げられています。
民間企業もこの目標達成に向け積極的な取り組みがされており、トヨタ自動車株式会社は「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、工場から排出されるCO2に対し、2030年度までに2013年度比35%以上の削減を目指しています。
これらの目標達成に向け中小企業も省エネルギー設備を導入し運用改善も行いCO2削減を行っているが、目標値には届かず改善は限界にきています。そのため、再生エネルギーを利用して製造された水素を用いてCO2をエネルギー資源に転用することによってCO2排出量削減をはかる「メタネーション」設備が検討されている。
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