東海科学機器協会の会報

No.294 2003 新年号

不易流行

東海科学機器協会 副理事長 八神 基 (株式会社ヤガミ)


3-110 あけましておめでとうございます。
 バブル経済の真っ只中で始まった平成は、もう15年目を迎えることとなりました。世界第二位の経済規模となって以降、かつてない長い不況が続いています。でも、例えば都市の繁華街を見ている限り、どこが不況なの?という疑問すら湧いてくる実態がある一方、同じ都市の公園地帯には青いビニールシートの中で暮らすホームレスの人々が増えてきているのも事実です。不況によって仕事を失い、行き場の無い人々のこの正月を思うと、今の政府の経済政策、企業のリストラ策など、これは間違っているぞと、些かの義憤を覚えつつも、当座を凌ぐには犠牲者が出ることもやむを得ないことかなあ、と諦めの気持ちが湧くのも否定できません。
 「不易流行」という言葉があります。もとは松尾芭蕉が唱えた俳諧用語ですが、「不易」とは永久不変のもの、「流行」とは時代と共に変化し続けるものです。「新しさを追い求めて、たえず変化していく流行性の中にこそ、永久に変わらない本質があるということ」と、記されています。
 数年前、スペインのバルセロナへ行きました。観光客の誰もが訪れるガウディのサグラダ・ファミリア教会(神聖家族聖堂)は、120年前に着工され、今なお建築が続いています。完成までには、あと200年を要するとのことです。この建築では、「不易流行」の手法を取り入れて進められていると聞きました。
 人が興したことは、いつか終りがある。しかし、企業はゴーイングコンサーンといいます。代を重ね、今なお隆盛な店を「老舗」と称します。ただ古いだけでは向上心がない、商いは質素に、地道に行う一方、新しいことにも目を配り、改善・改良を重ねてこそ永続性が保証されます。これが企業の「不易流行」の原点かと思います。つまり、「日々新た」を追い続ける姿勢と、その実行こそが未来を保証するということなのでしょう。
 今のこの不安な時代にあって、「不易流行」の精神を打ち立て、変えるべきことと変えるべきでないことを、この正月にあらためて思いをいたしたいと考えています。
 以前読んだ本の一文、「順調な時にリストラを」。この逆が行われているのが不幸ですね。
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