東海科学機器協会の会報

No.330 2010 春号

〔サイエンスリレー第1回〕環境問題と理化学機器

各会員様は、それぞれ科学機器業界の一翼を担う、すばらしい商品をもっておられます。
そこから科学技術の側面を切り出し、情報提供するということで会員同士のコミニケーションも高めていきたい。
そこでお馴染みのサイエンスコーナーをリレー方式にリニューアル!
生まれ変わったサイエンスコーナーの記念すべき第1回目、よーいスタートです。


日本フリーザー㈱名古屋営業所 十河龍司


1.はじめに
 地球温暖化をはじめとする環境問題は、もはや事業者だけでなく、国民一人ひとりが真剣に取組まなければならない時代になって来ています。また、様々な分野における研究や各種検査用として利用される理化学機器も、基本的な機能や性能に加え、より環境負荷の小さいものが求められるようになってきました。
 ここでは、理化学業界でも多数利用されているフリーザーや保冷庫が環境に与える影響について紹介します。

2.冷媒(フロンガス)の環境負荷と法規制
 フリーザーや保冷庫には、冷媒(フロンガス)が含まれています。この冷媒が液体から気体に状態変化する際に周囲の熱を吸収する性質を利用して、フリーザーや保冷庫の庫内は冷却されます。
 しかしながら、この便利な冷媒には、フッ素や塩素などの環境に悪影響を及ぼす物質が含まれています。そして、その含有物質の種類によって、特定フロン(CFC)、指定フロン(HCFC)、代替フロン(HFC)、ノンフロン(HC)と分類されています。
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 これらの冷媒には、以下のような各種規制が存在します。
①オゾン層保護法(1988年5月~)
 オゾン層は、太陽からの有害な紫外線の多くを吸収し、地上の生態系を保護する役割を果たしています。このオゾン層は、フロンガス等に含まれる塩素原子によって破壊されるとされ、1個の塩素原子により数万個のオゾン分子が分解されるといわれています。
 そこで我が国では、1988年5月から施行された「オゾン層保護法」によって、塩素を含むフロンCFC類は1995年末に生産全廃、HCFC類は2020年に実質全廃予定とされました。
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②フロン回収破壊法(2002年4月~)
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 1997年に採択された「気候変動枠組条約/京都議定書」では、フロンガスも二酸化炭素(CO2)と並び地球温室効果の高いガスとして位置付けられました。これを受け、2001年4月には「家電リサイクル法」が施行され、家庭用冷蔵庫を廃棄する際には、中に封入されているフロンガスを回収・破壊処理することが義務付けられました。また、2002年4月には「フロン回収破壊法」が施行され、業務用のエアコンや理化学業界等で使用されるフリーザーや保冷庫についても、家庭用冷蔵庫と同様、廃棄・修理する際には、フロンガス(CFC,HCFC,HFC)を回収・破壊することが義務付けられました。
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 このような規制の中、オゾン層を破壊せず、地球温暖化も殆んど促さない冷媒としてイソブタン(R-600a)が注目され、現在では日本の家庭用冷蔵庫の大半が冷媒として、このイソブタンを使用しています。しかし、理化学業界のフリーザーや保冷庫では、いまだに冷媒にフロンガスが含まれるものが多数存在します。

3.地球に優しいノンフロン製品
 前述したイソブタンは、物質そのものが低環境負荷でありますが、更にはフロンを含む冷媒と比較し、エネルギー効率が高いとされています。すなわち、少ない電力量で必要とする冷却効果が得られることから、二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に削減することが可能であり、地球温暖化防止にも大きく寄与します。
 ある理化学用の小型フリーザーでの試算値によると、従来のフロンを含む製品と、ノンフロン製品とでは、年間のCO2排出量で約500kgの差が生じます。これはペットボトル(2L)に換算すると、12~13万本に匹敵します。また、この量をスギの木の吸収量に換算すると、36本分に相当します。すなわち、フロンを含む製品からノンフロン製品に切り替えることで、スギの木を36本植林したのと同じCO2削減効果が得られることになります。
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4.我が国の環境保護に対する取組み
 我が国では環境保護対策として、先に述べた法規制に加え、以下のような取組みが行われております。
①グリーン購入法(2001年4月~)
 国等の機関を対象に、製品やサービスを購入する際に、環境への負荷ができるだけ少ないものを選ぶことを義務付ける法律です。
②「チーム・マイナス6%」、「チャレンジ25キャンペーン」の発足
 京都議定書の発効を受け、環境省が中心となって、国、地方公共団体、事業者、国民一人ひとりが、協力して温室効果ガスの削減に取組む国民プロジェクト「チーム・マイナス6%」が2005年4月に発足されました。また、2009年の国連気候変動サミットでは、我が国の新たな温室効果ガスの削減目標が表明され、「チャレンジ25キャンペーン」と名称が変更されました。

5.むすび
 以上、述べてきたように理化学業界においても環境負荷は無視できない状況にあります。今後は商品を選定する側も、商品を開発する側も環境に十分配慮することが必要不可欠な時代になってきております。