東海科学機器協会の会報

No.299 2004 新年号

温泉好き

fuji6温泉好き
東海科学機器協会 理事 伊丹惣三(壽工業株式会社)


10-111
 昔から会社の慰安旅行といえば“温泉旅館で宴会”が付き物でしたが、最近は大方の会社で慰安旅行が廃止されているようで、したがって大勢で温泉地へ行くことは少なくなり、むしろ少人数での温泉行きが流行っているようです。私も温泉が大好きです。
 地下では、深くなるほど次第に温度が高くなります。特に火山地帯では地下数kmないし十数kmという、比較的浅いところに深部から上昇してきたマグマ溜まりがあり、数万年から数十万年にわたって永く熱を出し続けます。地下に入った雨水がこれらの熱で温められて温度が上がるとともに、流動中に回りの岩石からもさまざまな成分を溶解するなどして、水質が変化した熱水が温泉水の元になると考えられています。
 さて、温泉には、草津温泉や別府温泉のように古くから知られているものから、最近の村おこしで掘り当てられた町営のクアハウスまで、数多くの種類があります。一方、何の変哲もない地下水をボイラーで沸かし、これを温泉と称しているところもよく見かけられます。
 ところで、日本の温泉法では、泉源で採取されたときの水温が25℃以上あるか、あるいは25℃に達していなくても特定の成分が規定量以上含まれていれば、温泉と定義されることになっています。たとえば、水温が16℃といった低温であっても、水1kg(すなわち1)中にナトリウムイオンや塩素イオンなどの溶存物質(これをミネラルと呼びます)の総量が1g(1,000mg)以上、すなわち0.1%以上あれば温泉と呼ぶことができます。したがって、同じ16℃であっても、温泉水と普通の井戸水との違いは、特定の成分が規定量以上含まれていれば温泉、そうでなければ単なる井戸水ということになります。
もっとも、25℃未満のときは、冷鉱泉と呼ぶことがあります。海水にはミネラルがたっぷり含まれているので、海水も温泉水と呼べるのではないか?という疑問がわきますが、海水は地下水ではないので、温泉とは呼べません。
さて、温泉は神経痛やリューマチ、さらにはアトピー性皮膚炎などに効能ありといわれることがあります。このとき「温泉水の成分が皮膚を通して体内に吸収され、病気治療に役立つ」という理由付けがされています。しかし、人間の正常な皮膚は、皮膚に触れるさまざまな物質をそう簡単には吸収しないような仕組みになっています。(ただし、油溶性の物質の中には、皮膚の脂質から吸収されるものがあります。)海水1中にはミネラルが30,000mg、すなわち30gも含まれています。もしも皮膚からこれらが吸収されるとするならば、海水浴のときは皮膚がこれらを吸収して大変なことになります。しかし、実際にはそのようなことは起こりません。一方、粘膜にはものを吸収する能力があるので、これを利用した舌下錠や座薬が治療に使われています。
 ところで、温泉に入ると皮膚がヌルヌルすることがあります。アルカリには皮膚のたんぱく質を溶かす作用があるからです。したがって、強いアルカリ性の温泉に入るときは注意が必要です。
 温泉の効能は、「温泉水の成分が皮膚を通して体内に吸収されて病気治療に役立つ」のではなく、良い景色を眺め、おいしいものを食べ、何度も温泉に浸かってゆったり、のんびりすることによって肉体的疲労が取れ、精神的なゆとりが生まれることにあるといえます。