[ サイエンスコーナー ] BSEの現状と検査法
富士レビオ株式会社 ナショナルアカウント部 横山 敦史
牛海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy:BSE)は異常プリオン蛋白質の蓄積により神経障害を呈する牛の感染性プリオン病です。英国では1985年ごろから散発的に発生が見られ、1992~1993年に発生のピークを迎え2005年には18万4千頭ほどに達しています。日本では2001年9月にはじめてBSEが発見され、農林水産省、厚生労働省の指導により2001年10月18日より全国の食肉衛生検査所ですべてのと畜牛を対象に異常プリオン蛋白質のスクリーニング検査が実施されました。また、特定危険部位(脳、眼、脊髄、回腸遠位部)の除去による焼却処分が義務付けられています。2004年からは全国の家畜保健衛生所でも死亡牛の一次スクリーニング検査が実施されています。わが国では現在(2006年8月)までに28頭のBSE感染牛が確認されており、死亡牛も含めて下表のとおりです。
一方でヒトプリオン病としての変異型クロイッツフェルト・ヤコブ病(vCJD)が1996年に報告されて以来、BSE汚染食品等の摂取が感染源として強く示唆され、BSEが人獣共通感染症として、また、食品媒介感染症として認知されています。
BSEスクリーニング検査の検査対象は、と畜場に搬入される21ヶ月齢以上の牛(現時点ではほとんどの自治体で全頭検査を実施)と家畜保健衛生所に搬入される24ヶ月齢以上の死亡牛で、牛延髄を検体として酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)にてスクリーニング検査を実施しています。
ELISA法は操作が簡単で大量検体の処理が可能な検査方法です。検査材料としてはタンパク分解酵素であるプロティナーゼK(PK)処理した脳乳剤(ホモジナイズした牛延髄閂部)を用い、マイクロプレートに固相化した抗ウシプリオン蛋白質抗体で補足した異常プリオン蛋白質を検出します。ELISA法で陽性および疑陽性となった検体は、同一方法で再検査を実施し、再度陽性となった場合には、国立感染症研究所または動物衛生研究所などで免疫生化学的検査(ウエスタンブロット法)および免疫組織化学的検査などの確認検査が実施されています。
BSE確認状況(2006年8月現在)
確認年月日 | 月齢 | 品種 | 生産地 | 検査結果 (注1) | ||||
WB法 | 免疫組織
化学 |
病理 組織 |
||||||
1 | 平成13年9月10日 | 64ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道佐呂間町 | + | + | + |
2 | 平成13年11月21日 | 67ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道猿払村 | + | + | - |
3 | 平成13年12月2日 | 68ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 群馬県宮城村 | + | + | + |
4 | 平成14年5月13日 | 73ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道音別町 | + | + | + |
5 | 平成14年8月23日 | 80ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 神奈川県伊勢原市 | + | + | - |
6 | 平成15年1月20日 | 83ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道標茶町 | + | + | + |
7 | 平成15年1月23日 | 81ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道湧別町 | + | + | - |
8 | 平成15年10月6日 | 23ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 去勢 | 栃木県大田原市 | + (注3) |
- | - |
9 | 平成15年11月4日 | 21ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 去勢 | 兵庫県氷上郡 | + | - | - |
10 | 平成16年2月22日 | 95ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 神奈川県秦野市 | + | - | - |
11 | 平成16年3月9日 (注4) |
94ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道標茶町 | + | - | - |
12 | 平成16年9月13日 | 62ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 熊本県泗水町 | + | - | - |
13 | 平成16年9月23日 | 103ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道士幌町 | + | - | - |
14 | 平成16年10月14日 (注4) |
48ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道鹿追町 | + | - | - |
15 | 平成17年2月26日 (注4) |
102ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道中川郡本別町 | + | - | - |
16 | 平成17年3月27日 | 108ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道天塩町 | + | - | - |
17 | 平成17年4月8日 (注4) |
54ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道河東郡音更町 | + | - | - |
18 | 平成17年5月12日 | 68ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道砂川市 | + | - | - |
19 | 平成17年6月2日 | 109ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道野付郡別海町 | + | + | - |
20 | 平成17年6月6日 | 57ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道河東郡鹿追町 | + | + | - |
21 | 平成17年12月10日 (注4) |
69ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道千歳市 | + | + | - |
22 | 平成18年1月23日
(注4) |
64ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道野付郡別海町 | + | + | 判定 不能 (注5) |
23 | 平成18年3月15日 | 68ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道中川郡中川町 | + | + | + |
24 | 平成18年3月17日 | 169ヶ月齢 | 黒毛和種 | 雌 | 長崎県壱岐市 | + (注6) |
+ | + |
25 | 平成18年4月19日 | 71ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道枝幸郡枝幸町 | + | + | - |
26 | 平成18年5月13日 (注4) |
68ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道瀬棚郡今金町 | + | + | 判定 不能 (注5) |
27 | 平成18年5月19日 (注4) |
68ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道中川郡豊頃町 | + | + | + |
28 | 平成18年8月11日 (注4) |
80ヶ月齢 | ホルスタイン種 | 雌 | 北海道天塩郡幌延町 | + | + | - |
(注1) | 病理組織検査は、脳組織に明らかな空胞が認められた場合、「+」としている。 |
(注2) | いずれの場合もBSEを疑う臨床症状は確認されなかった。 |
(注3) | 糖鎖パターン及びプロテアーゼ耐性がこれまで確認されたBSEのものとは異なっていた。 |
(注4) | 生産段階における死亡牛の検査で確認されたものであり、と畜場へは搬入されていない。 |
(注5) | 非常に弱い空胞変性が認められたが、死後変化との明確な区別が困難であったので、「判定不能」としている。 |
(注6) | 検出された異常プリオン蛋白質のパターンが定型的なものでなかった。 |