東海科学機器協会の会報

No.324 2009 新年号

[ サイエンスコーナー ] 塩素消毒における消毒副生成物

壽化工機㈱ 佐野教信


 

 昨年10月に、A社の地下水からシアン化合物が検出されたことが発覚し、このことに関して
いろいろな報道がありました。弊社でも、数年前よりこの問題に取り組んでいますので、以下に消毒副生成物およびシアン化合物の生成過程や分析方法の問題点について解説いたします。

1 消毒副生成物の種類
 塩素消毒における消毒副生成物は、その生 成過程により3種類に分けることが出来ます。
①滅菌用の次亜塩素酸ソーダの中に既に不純 物として含まれているもの
 臭素酸、塩素酸。臭素酸は製造原料に由来する不純物で、塩素酸は保存による劣化時の生成物。
 臭素酸については低臭素酸の製品を使用することで解決し、塩素酸については次亜塩素 酸の劣化が原因であることから、保存方法に注意すれば問題ないとされています。
②次亜塩素酸ソーダと地下水に含まれる有機 物の反応生成物
 クロロホルムなどのトリハロメタン類や、クロロ酢酸など酢酸と塩素の化合物など。これらは地下水に含まれるフミン質*)と塩素の反応によって生成することが明らかになっています。
③次亜塩素酸ソーダと地下水に含まれる有機 物およびアンモニアの反応生成物シアン化合物イオンおよび塩化シアン。(以下、シアンおよび塩化シアンと略)
 フミン質とアンモニアが存在すると生成するもので、これが今回のA社における騒動です。
 *)フミン質:フミン酸やフルボ酸の総称。植物の最終分解残留物で色度の原因。

2シアンと塩化シアン
(1)生成機構
フミン質と、アンモニア・塩素が反応しCN(シアン)を生成し、更に塩素が反応してCNCl(塩化シアン)が生成します。更に塩素が存在するとCO2とN2に分解します。

 このことより、塩素が十分に添加されていればCO2、N2まで分解されるのですが、不足した場合にはCN、CNClが残ることになります。劣化した次亜塩素酸液を使用すると塩素添加量が不足するので、シアンおよび塩化シアンが分解されないままになることがあります。
(2)分析方法の問題点
シアンの分析方法は、平成15年にそれまでの吸光光度法からイオンクロマト・ポストカラム法に改正されました。この方法は、サンプル水にシアンが存在しなくても前処理操作でシアンが生成するとの指摘*)があり、さらに平成17年に再改正がなされました。ところがこの方法においてもアンモニアが存在すると分析の過程でシアンが生成する疑いがあるため現在、公の機関で検証中とのことです。A社において一時、塩素処理をしていないにも拘わらずシアンが検出したとの情報がありましたが、このことはおそらく分析方法に問題があると推測されています。 
*)吉川循江ほか 分析化学Vol.56,P.593(2007)