東海科学機器協会の会報

No.333 2010 冬号

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構核融合科学研究所 見学報告

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工場見学会実行委員長 八代 智

 東海科学機器協会(以下、協会)で工場・研究所見学担当をしております八代 智(島津製作所名古屋支店)です。協会行事として、11月24日(水)に、岐阜県土岐市にある題記核融合科学研究所(以下、研究所)を見学しました。26名の会員に参加していただきました。ありがとうございました。下記報告します。
 研究所は、1980年11月の学術審議会で「大学等における核融合研究の長期的推進方策について」が建議されたことが契機となり、1989年5月に名古屋市に核融合科学研究所を設立。1997年7月に現在の岐阜県土岐市に移転して今日に至っています。
 研究所の研究テーマは、「地上に太陽を創ること」です。つまり、太陽のエネルギー製造方法(核融合)を利用して、従来の化石燃料資源に頼らないクリーンで無限ともいえるエネルギー創造を目指しています。
 現在のエネルギー製造体制は、多くが化石燃料資源によって製造され、原子力方式等が補っています。化石燃料資源の地球における埋蔵量には限りがあります。また、原子力方式の拡大には、種々課題があります。また、現在の体制を続ける限り、今世紀中頃には90億人になるといわれる地球人口を、エネルギー供給の観点から養えなくなるといわれています。また、遠い将来のことですが、次期の氷河期が来た場合、現状のエネルギー製造体制では、人類の滅亡が危惧されています。それらを抜本的に解決するエネルギーとして核融合エネルギーが位置しています。研究所では、太陽よりもエネルギー発生効率を高めるために、海水中に極微量含まれる重水素とリチウムを使用します。つまり、海水が無くならない限り原料は無尽蔵にあります。
 核融合を安定的に行うためには、エネルギーを高温高密度のプラズマ状態にして、装置に閉じ込めて制御する技術が中心課題となります。プラズマを閉じ込める装置が大型ヘリカル装置(LHD)であり、この研究所の中核実験装置です。見学部分では、研究段階初期のヘリカル装置を初めとして、今までに至る数機の装置を見学しました。現在、実験で使用しているLHDは、日本独自のアイデアに基づく磁場閉じ込め方式を用いた世界最大の超伝導ヘリカル装置です。これを用いて定常プラズマの装置内閉じ込め研究を行い、将来の炉心プラズマの保持に必要な物理的、工学的課題を解明することに使用されています。 
 同研究所によると30年後に実用段階に入ることを見込んでいるとのことでした。
 核融合研究は世界的に行われていますが、フランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)に代表されるトカマク型装置があります。ヘリカル型とトカマク型は、現状ではそれぞれに長所と短所がありますが、この研究所で開発されているLHD(ヘリカル型)が実用化できたならば、最も太陽に類似した核融合装置になると思われます。
 さらなる研究発展と日本独自の磁場閉じ込め方式の超伝導LHD装置を中心としたシステムが世界標準仕様となることを祈念して報告を終わります。
 来年度も新たな見学先を提案しますので、協会々員各位には、ご参加をお願い申し上げます。

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核融合科学研究所とは


 核融合科学分野における国立の研究所で、自然科学研究機構を構成する岐阜県土岐市にある大学共同利用機構。
 世界最大の超伝導ヘリカル装置を使って核融合の実用化研究に取り組んでいる。30年後を目標に発電用実証炉の運転を目指しており世界の核融合研究をリードする。
 さまざまな大学院生に対する教育も積極的に実施しており、年々一般の施設見学者も増加。昨年は1万人に達しました。

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平成22年11月30日 ビジネスアイ(日本工業新聞)P33