東海科学機器協会の会報

No.368 2018 秋号

サイエンスコーナー 名古屋市科学館の光学式プラネタリウム について

名古屋市科学館 学芸課 天文係長 毛利 勝廣

141 名古屋市科学館のプラネタリウムは2011年3月にリニューアルオープンし、8年目にはいりました。当館のプラネタリウムでは、来館者にプラネタリウムを見た後、本物の空を見上げてほしいと考えています。そこで、本物の空で星をうまく見つけていただけるように、限りなく本物に近い星空を再現して専門学芸員が生解説をしています。

・名古屋市科学館の光学式プラネタリウム
(Carl Zeiss製 UNIVERSARIUM Model IX No.600)は、肉眼で見えるすべての星や太陽、月、惑星、星雲星団等を投影するために、ドーム球体の中央に設置してあります(図1)。再現している恒星は6.55等星までの9100個。そのほとんどを肉眼の分解能以下の小さく鋭い点像で再現できることで、本物の星と同じように鋭い点の周囲に広がる光芒を見ることができます。
 実際の空の1等星と6等星とでは光量が100倍違います。プラネタリウムではこの光量比を面積の違いで再現しています。すると1等星の直径は
6等星の10倍必要です。そこでどうしても明るい星には面積が見えてしまいがちなのです。Carl Zeiss社の光学式プラネタリウムは、内部構造を工夫して強い光を出すことができるようにしてあり、全体の星の像の大きさを小さくしています。その結果、明るい星でも面積を感じないのです。代わりに6等星のような暗い星の像はとても小さくなります。そこで設計時にはドームスクリーンの穴に微光星が埋もれてしまわないかどうかの投影チェックを行ったくらいです。

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・光学式プラネタリウムの原理と進化
 1923年、CarlZeiss社は現代のプラネタリウムの基本となるModelIを製作し公開しました。中央に光源を置き、そこから出た光を星の位置に穴をあけた「恒星原板」に当て、出てきた光をレンズでドームに投影するという仕組みです(図2)。CarlZeiss社はこの仕組での特許を取らなかったので、他社も同様な仕組みを使ったプラネタリウムを作ることができました。そして1980年代後半にCarlZeiss社が大きな改良を加えました。それが光ファイバー式です(図3)。従来型では光源の光のほんの一部、穴のところに行った光だけしか使われません。それに対して光ファイバー式は穴の空いているところへ光ファイバーで光を導きますから、効率良く光源の光を使うことができます。こうしてできた光量効率の余裕は、大きなドームに対応すること、星像を小さくすること、そして光源となるアークランプのワット数を下げることに振り分けられています。一般的に光量の大きいアーク
ランプは色のバランスが悪く青白くなります。光ファイバー式は、赤い光までもバランスよく発光できるアークランプを選択することができ、自然な色合いの星空をも再現することができます。

・さらにLED光源へ
 2018年3月、光学式プラネタリウムのアップグレードを行いました。光源をアークランプからLEDに交換したのです。LEDはアークランプよりも圧倒的に寿命が長く、ランプ交換という作業自体が不要になり、トラブル率の軽減やランプごとの性能のばらつきによる性能低下を防ぐことができます。また色バランスについてはアークランプよりもともと良いものを作ることができるので、十分な光量と色バランスを持つLEDが開発されるのを待っていたのです。中央の恒星球の中は恒星用に400Wのアークランプを2つ使っていました。これを10WのLED14個に置き換えてW数を約1/6にし冷却ファンの数をぐんと減らすこともできました。そこで、より静かで安定したプラネタリウムに進化したのです。