東海科学機器協会の会報

No.368 2018 秋号

かきゃあ あんたも あなたの知らない世界

㈱ヤガミ 向山 裕

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 このたびは世を忍ぶ肩身の狭い趣味、「鳥撃ち」をご紹介します。読んで字の如く、鴨などのおいしい野鳥を銃で撃ち、食べてしまうという野蛮かつ誇り高い趣味です。銃といっても、私が使うのは皆さんが想像するものと少し違います。「空気銃」というボンベに蓄えた圧縮空気を使って、小さい鉛弾をプシュッと撃ち出す小物猟専用のものです。といって玩具ではなく、所持には警察の許可が必要なホンモノ、見た目もライフルそのものです。もし人に当たったら…まあケガはしますが死にはしないでしょう。猟期は冬の三ヶ月間だけです。

 日本は銃に関する取り締まりがとてつもなく厳しく、緻密な法律が網の目のように巡らしてあり、いかなる軽微な違反であっても検挙されれば即許可取消です。これは車で例えれば駐車違反だろうが一旦不停止だろうが即免取(停止ではない!)ということです。厳しさが想像できようと思います。また再取得は事実上不可能な点も車の免許とは違います。無事故・無違反が絶対です。

 一方で、おいしい野鳥はたいてい人里に居ます。人家や田畑が点在するところ、すなわち地元住民の生活圏が猟場になります。これは大型獣狙いで深山に分け入る猟と最も異なる点です。昔はハンターなんて田舎ではありふれた存在だったそうですが、人口を激減させて久しい我々のいでたちは、今や不審者以外の何者でもありません。銃を持った人がうろついたり、茂みに潜んでいるのを見かければコワイですよね、通報しますよね。まして生き物を殺すハンターを良く思わない人も大勢います(自分もかつてはそうでした)。正式な許可を受け、登録をし、狩猟税を納めた遵法ハンターは、本当は何ひとつやましいところなど無いのですが、地元住民から通報を受ければ大変です。もし相手が変な人で、嘘でも「銃口を向けられた!」などと言われたらどうなるかわかりませんし、間違いなくその日の猟は台無しです。よって我々鳥撃ちハンターは、鳥に見つからないことよりも、人に見つからないことをずっと重視します。なんと肩身の狭い趣味でしょう!しかしマイナーを自覚する我々は世を恨みません。なるべく人目の付かない池を探し出し、ひとところに長居は無用、そして早朝のうちに決着をつけて帰路につきます。それでも人に会ってしまったら…朗らかに挨拶、全身全霊を傾けて無害な人柄をアピールします。

 猟仲間では釣り人に変装している人も多く居ます。フィッシングベストを着て「釣り名人」みたいな絵柄のでかいステッカーを貼った竿ケースをかつぎ… 野池に忍び寄って双眼鏡で水面を捜索、鴨を見つけると、周囲の無人を確認した後に竿ケースから静かに銃を取り出してスコープを覗く、といった具合です。

 皆さんが、魚の活性が悪いはずの冬季に、野池をうろつく釣り人を見たなら、またあなたを見つけるや否や何もせずにそっと引き上げて行ったなら、その人は鳥撃ちハンターかもしれません。