東海科学機器協会の会報

No.369 2019 新年号

かきゃあ あんたも 船旅雑感

㈱AGIテクニグラス 各務 隆弘

 学生時代に遡る。高校生の時に見た映画、アメリカの記者とイギリスの女医との恋物語である「慕情」のロケ地が香港であった。サウンドトラックも当時ヒットした。ビクトリアピークやレパレスベイの美しい光景が目に焼き付き、いつかは行きたい思いが募った。

 時は大学3年の時、満を持して結果的にYMCAやユースホステルを利用して、一か月の東南アジア旅行となった。勿論、香港が最初の訪問地である。この時安価に予算を立てるため客船や貨客船のスケジュール表や運賃を調べたが、当時はAPLやP&Oが横浜から東南アジアに航路を持っていた。しかしながら固定相場のドル建ても相まって船賃は決して安くなく、飛行機最安値の「東南アジア周遊一か月のオープン切符」でアジアを渡り歩いた。

 以後、当時の船社の資料を見て、又「いつかは船旅」の思いを維持していた。幸い過去15年程の間に、スタークルーズ(現ゲンティンクルーズ)を皮切りにプリンセスクルーズ、セレブリティクルーズ、コスタクルーズ等、を利用してアメリカ、メキシコ、マレーシア、韓国、中国、台湾など計9回の航海を経験した。何分仕事の関係で長期の航海は困難で、これは現役を離れてからの期待としたい。

 当初はフライ&クルーズでシンガポール、ロスアンゼルス、チンタオ、上海などで乗船であったが、近年は外国船でも国内発着便が多数就航しており、飛行機での移動時間もなく、いきなり乗船で旅が楽しめるため、国内のクルーズ人口も増加傾向にある。

 直近ではイタリア船籍のコスタクルーズのネオ・ロマンチカだ。外国船は国内のみのクルーズは認められないため、釜山をワンタッチする日本海クルーズとして舞鶴乗下船で富山、新潟、函館、釜山、博多を経験した。各寄港地では下船してハイライトのみの観光で早々に帰船し、プールサイドや高層階船尾の有料ジャグジーなどで過ごした。

 幸い好天に恵まれ快適な日々を過ごしたが、毎夜の食事はスイートクラスのみが使用できる専用レストランで生演奏を聴きながらのフルコース。スタッフは客の食べ物や飲み物の指向性を覚え愛想を振りまき楽しくおいしい時間を過ごせた。今回は飲み物はオールインクルッシブで船賃に含まれている。つまり毎晩飲み放題は嬉しい。朝はブッフェに行くか、ルームサービスを依頼してベランダで食す。

 乗船二日目にはフォーマルナイトを迎え船長主催のウエルカムパーティ。シャンパンと小菓子が振る舞われ幹部スタッフの紹介も行われた。客層は圧倒的に日本人が占めるが、近隣諸国からと思われる人々や、欧米系とみられる客もそれなりに目立った。

 なぜ日本国内中心の、しかも地方都市を巡るこの旅に欧米系の客が、と思いオーストリアから来たと言う夫婦に聞けば、日本の代表的な観光地はすでに訪問しており、地方都市の日本を訪れたくて今回の船旅を選択したという。政府の観光立国政策は様々な要素で日本を訪れる外国人を呼び込み、リピーター客は更に日本の深層部に興味を持つに至ったようだ。

 船賃には宿泊、交通費、一部有料もあるが食費が含まれる。終日航海日もあるが、翌朝又は翌々朝には次の寄港地に接岸して時間の無駄がない。船内では毎日、様々なエンタメやパーフォーマンスが深夜までプログラムされ、退屈することはない。バルコニーからは爽やかな日の出、赤く空を染め、円弧を描く水平線の向こうに沈み行く落日、その後、手が届くほどの満天の星は最大のショーでもある。就寝前のバーめぐりも優雅な時間。

 船旅は船社、コース、日程をうまく選択すれば決して有産階級だけのものではなく、私たちでも気軽に利用できる環境が整っている。極端な例だが日本のサンフラワーを買船してクルーズフェリーとして運航している韓国のパンスタークルーズは大阪と釜山を瀬戸内海航路で往復している。純粋な客船ではないが改装を施しながら様々なサービスを提供していて、季節にもよるが釜山一泊、往復船賃の最低価格が9,800円余。バイクや車を航送すれば、右側走行に問題ない人なら自分の愛車で海外旅行が楽しめる。10年ほど前の経験では2隻体制で毎日便だったため、午前釜山着で焼き肉ランチをして夕刻乗船。船中2泊の弾丸クルーズも楽しかった。

 欧米では移民などの必要性から1800年代に大西洋を巡る定期航路が整備される傍ら、旅行としてのクルーズ船も素晴らしい発展を遂げてきた。コペンハーゲンの港では大手スーパーの駐車場の如く、無数の大きな客船で埋め尽くされていた光景が印象にある。日本船は初代飛鳥をドイツに売船し、アメリカのクリスタルクルーズから買船した船体を飛鳥Ⅱとして2006に改装、就航している。日本船では一番人気でリピーター率が高い。他に日本丸も世界一周をしている等ファンが定着している。ぱしふぃっくびいなすはその美しい船体に人気がある。残念ながら、私には中小型船の宿命である高価な日本船の経験がない。現在では船体がより大きくなりコストダウンのため10万トン超は世界の潮流であり乗客定員は5000人を超える。テンダーボートを使用しなくても良いように、日本の港湾施設も追随して大型船呼び込みのための岸壁整備が各地で行われている。

 最近は海外船社が大型の新造船を中国市場に投入するなど、中国の桁違いに多い富裕層をターゲットに市場は日本以上の需要先となっている。私の当面の夢は区間乗船で構わないので英キュナードのクイーンエリザベス、メリー号に乗ること。一方未知のカリブ海や南太平洋にも、そしてドナウ川などのリバークルーズも経験したい。船社のスケジュールは魅力的な寄港地満載の企画をしているが、船上での生活を楽しむ非日常的な時間がなんとも心地よい。因みに2019年のGWは家族、孫を含め10名余でMHI長崎製のダイアモンド・プリンセスでの航海を予定している。

船旅の楽しみは果てしなく尽きない。