東海科学機器協会の会報

No.284 2001 1月号

サイエンスコーナー 燃料電池について

日製産業(株)中部支店 安達公一


 燃料電池は、ガソリン、天然ガス、メタノール、石油、石炭等を燃料として電力を発生させるための発電装置です。
 原理は、様々な燃料より水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させて水にします。その過程で電気が発生し、その電気を外部に取り出すものです。
 これは、1980年にイギリスのグローブ卿によって発明されたものです。初めて燃料電池が実用化されたのは、米国アポロ計画でのジェミニ宇宙船です。電気化学反応を用いるため、従来の火力発電とは異なり燃料を燃焼させる必要がなく、エネルギー効率が高く、さらに宇宙生活での飲料水も作れる、画期的な発電システムとして登場しました。 
 この燃料電池を自動車に搭載しようということで、トヨタ、ダイムラー等世界の大手メーカが、<世界初の燃料電池車メーカ>の座をめぐりしのぎを削っています。
 燃料電池は、水素と酸素が結び付いて水が出来る時の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変える発電器です。これを積んで発電しながら走る電気自動車は、車の心臓部に当たるエンジンが不要になるばかりか、水素を燃料にすれば排ガスは水だけという夢のクリーンカーになります。
 燃料電池のメリットとして、4つあげられます。
 第一に、クリーンな排ガスです。燃焼工程がないため、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などの有害な排ガスで出ないことです。
 第二に、化学エネルギーを直接電気に変えるため、発電効率が高いことです。
 第三に、内燃機関のような機械的な駆動機構がないため、運転音が静かなことです。
 第四に、水の電気分解やバイオマスから取り出して水素でも発電出来るので、化石燃料に依存しないことです。
 太陽光などのように自然エネルギーで作った水素を使う燃料電池は、理想的ですが、製造した水素を効率的に貯蔵する技術が見つかっていないため、現在ではガソリンやメタノール、天然ガスを燃料として車に貯蔵し、車に搭載した改質器で水素を取り出して最終的な燃料にする手法が、現実的と考えられています。
 燃料電池の燃料を何にするかで、改質器の開発も異なってきます。メタノールVSガソリンの勝負の行方は、2年後とも言われています。
 いま世界中で開発競争が繰り広げられている燃料電池は、固体高分子型燃料電池(PEFC)、またはプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)と呼ばれるタイプです。
 この燃料電池の本体は、スタックと呼ばれる多数の発電ユニットを積層して、必要な発電能力を持たせています。発電ユニットは、化学反応を引き起こして電気を発生させる膜-電極接合体と、これを両面 から挟み込んで支持するセパレータで構成されており、セパレータには、水素や酸素を供給するための複雑な流路がつくられています。
 現状の燃料電池の製造コストは、1kw当たり50万円~70万円以上になります。その内訳を見るとセパレータが約40%、膜-電極接合体の製造に約35%、膜そのものが10%弱、触媒が10%弱になります。
 これを100分の1以下に下げるには、セパレータや膜などの部品や素材のコストダウンが前提になります。ここに素材メーカの技術力が期待されているわけです。
 現在のセパレータの価格は、1枚当たり数万円です。硬い炭素系素材の板材に1枚ずつ切削加工して、水素や酸素が流れる複雑な流路を作っているためです。 50~100kwの出力が必要な自動車用燃料電池では、スタック1個当たり数百枚のセパレータを使うためコストアップの大きな要因となっています。
 量産時には、1枚当たり200円が目標というユニチカをはじめ成形法、素材の検討によりコストダウンに向けての開発は大きな進展を見せています。また、電気を発生させる化学反応を促進させる触媒には、高価な白金が使われており、この使用量 を現在の10分の1程度にし、コストダウンを図るべく素材メーカが開発を進めています。

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