東海科学機器協会の会報

No.302 2004 秋号

[ サイエンスコーナー ]  №1 バイオ関連技術と私たちの生活 -医療とバイオの成長- №2

(株)カーク 営業企画部 細谷弘美


 「医療」を「病院で受けるサービス」と考えたとき、問診・検査・外科的治療、服薬、発症予防指導の何処にバイオ研究の成果が生かされるのでしょうか。今回ここで2つ挙げてみます。
 まずは「服薬」・「予防」に、前回に書いたDNA塩基配列解析技術とDNA増幅技術によってもたらされた遺伝子解析の進展(疾患や個人の体質と塩基配列の対応のデータベース化)が生かされます。
 つまり、個人のDNA塩基配列を上記データベースに照合することで、疾患の発症リスクが予測でき、生活環境などをコントロールすることで発症率を軽減したり、服薬時の副作用の軽減ができると考えられています。
 同じ薬を飲んでも個人によって効果が異なり副作用の生じることもあるのは、肝臓で働いている分解酵素の働きに個人差があることがその理由の一つです。そして酵素の働き具合はその設計図であるDNA塩基配列のバリエーションの型によっています。あらかじめ患者さんの型がわかっていれば、使う薬の種類や量を調整し、副作用を防ぐことが出来ます。また、製薬会社では薬が開発される過程でその薬が効果的な患者の遺伝子型と、投薬を避けるべき遺伝子型を明らかにしておくことが可能でもあります。
 さて、解析するためのDNAをどこから採取するかですが、体に負担の少ない方法として血液検査で抜き取った血の白血球や、口の中の頬の表面を綿棒でこすってとれる細胞のもつDNAが使えます。個人のDNA塩基配列情報はからだのどこの細胞も基本的に同じDNAですし、採取された細胞がわずかであっても、遺伝子増幅技術を用いて検査が可能です。
 次に、「外科的治療」にも細胞を扱ったバイオ研究の成果が生かされつつあります。患者自身から特定の細胞を分離し、その細胞を人工的に増やしたり、有用な処理をした後患者本人の体内に戻すという全く新しい医療技術がそれです。
 これまで行われてきた“移植”は他人である健常人からもらった細胞や臓器を患者に移していましたが、拒絶反応を抑制するための服薬は患者の大きな負担でしたし、提供者を得ることも大変でした。それに比べ、自己の細胞を使って治療できればそれらの問題がなくなります。多種の疾患にその治療法の適用が考えられています。
 ここには細胞の分化や増殖に関する知見の蓄積を初めとして特定の細胞を分離したり、雑菌のない状態で人工的に飼う(即ち培養する)技術や機器の進歩が貢献しています。
 最後に機器・技術に目を向けてみましょう。医療分野とバイオ研究分野で使われる機器に求められる仕様は一線を画しているものが多いのですが、共通に利用されている“技術”として、“画像解析技術”の進歩は両者に大きな福音をもたらしています。画像情報は「何処でなにが起きているか」の「何処で」に明確な回答を与えますから。
 研究分野では特に光データの取り込みがCCDカメラに変わったことで、画像をデジタルデータで処理できるようになったことが大きく貢献しています。バイオの研究分野ではDNAの配列解析につづく研究として、実際に作られてくるタンパク質の存在場所や、その機能を解析する研究が盛んです。蛍光物質を巧みにつかいCCDカメラを通して観察することで、生きた細胞内でのタンパク質の起こす反応の解析を場所と時間を絡め出来るようになり、様々な反応の組み合わせにより成り立っている生命現象の解明に寄与しています。
 医療現場でも病変部位の位置情報の把握は治療に直接に結びつくのでとても重要です。どのようにしたら「より小さな病変を」「より検査の苦しみを少なく」検知できるか、医療機器の開発はまさにそこにかかっているといっても過言ではないと思います。
精密な「形態」画像を得るX線CT(Computed Tomography、コンピューター断層撮影)やMRI(Magnetic Resonance Imaging、核磁気共鳴断層装置)や体内に短期半減期の物質を入れて糖代謝・血流量などの「機能」を画像化するPET(Positron Emission Tomography、陽電子放射断層撮影装置)などが検査装置として活用されています。

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図:位置と量