東海科学機器協会の会報

No.372 2019 秋号

かきゃあ あんたも 「1、2、3、4!」

株式会社エンバイシス 沖田 陽一

僕たちの住むのは小さな地方都市。
駅からつながる商店街は、20時になると店は閉まりアーケードの明かりがシャッターを照らす。
そんな明るく寂しいアーケード街を自転車で通り抜け、少しわき道に入った雑居ビルの前に止める。
SAXの音がかすかに聞こえる。
狭い階段を上って扉を開け、すでに集まっているメンバーと声を交わし、背負っていたケースからギターを取り出す。

「じゃ、『Grapevine』から。」

いわゆる<おやじバンド>だ。女性も2名いる為、正確には<おやじ>ではない。
もともとは地元小学校のPTA父兄会イベントでバンドをすることになったのがきっかけで、かれこれ10年以上続いている。
そんなわけだからメンバーの職業はバラバラ。

「『悲しい気持ち』だからさー、もっと雰囲気出さないと。」

練習の拠点にしているのは、ライブハウス。
といっても常時開いているわけではなく、ライブやイベントがあるときだけ営業をする為、予定のない日に練習に貸してもらう。
「そんなのでやっていけるの?」と思うだろうがもちろんやっていけない。
地元企業の社長さんが「地元に根ざした音楽を絶やしたくない。」との思いから採算度外視で場所を提供してくれているのだ。

「さっきリズム、置きに行ってしもた!」
練習が一段落して、集金ボックスに500円玉を放り込み冷蔵庫からビールを取り出す。

主な演奏の場所は、年に数度ライブを主催したり、地元イベントで演奏したりだ。
そして、終われば打ち上げ。
ライブも楽しいが打ち上げも楽しい。
ついでに新年会もする。忘年会もする。そして<おやじ>の宿命である全快祝いもする。
普段の仕事では絶対接点がないであろう職種のメンバーが集まって仲良く十数年。
幸せである。

「そこsus4からメジャー?」「うんん、sus4のまんま」

次の練習日と課題曲を決めて解散。

次の日はまたそれぞれの職場で戦っているはず。
自転車を走らせていると夜風が気持ちいい。
練習前より少し元気になっている。