東海科学機器協会の会報

No.323 2008 冬号

[ TOPICS ] 財団法人鉄道総合技術研究所風洞技術センターを見学して

講演研修委員会実行委員長 八代 智
副委員長 宮木康光


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TKK講演研修委員会行事として、11月5日に、財団法人鉄道総合技術研究所風洞技術センター(以下、米原風洞と称す)を見学しました。以下、報告します。

財団法人鉄道総合技術研究所は、JR各社の負担金及び民間からの受託、補助金によって運営される旧日本国有鉄道が行っていた研究開発を承継する法人です。

その研究所では、わが国の鉄道事業の定常的技術的課題である「雪害」「塩害」「騒音」などについて、課題別に各地に研究所が設置されています。米原風洞は、騒音課題のために同研究所が、平成8年に滋賀県米原市のJR米原駅に隣接する場所に設置した大型低騒音風洞実験設備です。風洞設備は、国内外に設置されていますが、この風洞は、下記3点の特長があります。

1)世界に類をみない低騒音性能 (暗騒音レベル75dB(A)-300Km/h)

2)国内の大型低騒音風洞では最高の風速性能

3)精度が高い実走行を模擬するための大型高 速移動地面板を装備

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1)項の補足をします。風洞で風を生じさせる際に、風洞設備自体から発する騒音が大きいと、実験したい試験体から発生する音が精度よく採取できません。そのため、実験設備からの騒音(バックグラウンド)を非常に低くしています。

このため特殊な吸音コンクリートを使用するなど、わが国独自のハイテクが駆使されています。

2)項は、風洞設備の基本性能の一つです。

3)項の補足をします。米原風洞は、地上面付近を高速走行する輸送機(列車、自動車等)が試験対象です。試験体は、風洞の中で静止しているため、実際の走行状態を再現するためには、地面を高速で動かす必要があります。列車や自動車は、走行中に、自らの底面と地面との間でも風の抵抗を受けているためです。つまり、騒音が発生する箇所であり、この部分の対策が必要です。

米原風洞では、時速220Kmの走行が再現できます。これ以上の高速は、ベルトコンベア方式を使用する限り、ベルトの高速直進性を安全・安価に確保する技術が確立されていないため、実現が困難です。

このような優れた性能を持つ米原風洞ですが、年間実験可能日数約220日間に対して、JR各社からの依頼を含めて平均約280件の実験依頼があります。高速走行する輸送機にとって、騒音が如何に大きな課題であるかを示しています。騒音を解決することは、空気抵抗の低減も意味し、省エネルギーにもつながります。まさに、現代の高速輸送機が、社会から求められている課題の解決につながります。

具体的成果事例としては、新幹線高速化に伴う騒音低減、超電導リニアモーターなど列車に関するものが多数あります。

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JR以外では、トヨタ自動車の「セルシオ」の低騒音化、中部電力と共同開発している風切音の少ない電線開発などがあります。

優れた性能を持つ米原風洞は、国産技術でほとんどが作られました。わが国のハイテク象徴の一つです。わが国を支えるのは、「ものづくり」であることを確信した見学でした。また、それら研究開発を支援する企業の団体であるTKKの役割はさらに大きくなるでしょう。

最後に、米原風洞を熱くかつ親切に案内いただいた近藤所長殿にお礼申し上げます。

また、多忙の中、ご参加いただいたTKK会員各位に感謝申し上げます。