東海科学機器協会の会報

No.339 2012 新年号

〔年頭所感2012〕 和蝋燭

東海科学機器協会 副理事長
木下 実 株式会社木下理化


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 「科学技術立国」を唱える日本において、その事が問われた昨年ではないでしょうか。東日本大震災における福島原発の事故。「想定外」が一時はやり言葉になったように思われる。科学技術文明のあり方を基本から考える必要を感じ、自然とのかかわりの中で総合的に捉えなければならないと思われる。大量に、便利にという気持ちをそのままに自然に向き合うと思わぬしっぺ返しがある。ここで「想定外」と言わないように科学技術の有り方を考えて行動をしなくてはいけないのではないか。 「津波てんでんこ」を読んだ。この本によると、近代に入って「明治三陸大津波」(1896)「関東大震災」(1923)「昭和三陸津波」(1933)「東南海地震」(1944)「南海地震」(1946)「チリ地震」(1960)「日本海中部地震」(1983)「北海道南西沖地震」(1993)が取り上げられている。日本に地震、津波から安全な場所がない印象である。

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津波のときだけは、「てんでばらばら」、親子といえども人を頼りにせず、走れる子供は一目散で逃げろ。そして一家全滅、共倒れになることを防げ、というのが度々津波に襲われた苦い歴史から生まれた三陸地方の知恵だという。近隣で助け合うことを決めておく。地域の防災力は日頃の話し合いや、助け合いによって高められるものではないか、とも主張している。「高き住居は児孫の和楽・想へ惨禍の大津波・此処より下に家を建てるな・幾歳経るとも要心あれ」とい石碑があり、今度の津波もこの石碑の50m近くまで達したとのこと。坂の上で暮らしてきた人は改めて先人の教えに感謝をしたそうです。80年前の教えが生きたのだが、では今度の体験を子孫にどう伝えていくか。平成の記念碑は何より安全で美しい日本であって欲しい。福島の原発の事故により全炉が春に停止する。より一層の節電が要求される。時には電灯を消し、和蝋燭を灯す。趣があって良いものです。
 本年は、TKK会員皆様方にとって昨年より一層のご多幸を祈念申し上げます。