東海科学機器協会の会報

No.370 2019 春号

雑記

伊勢久株式会社 楠 求

 25歳になったとき
 30歳になる前に、自分の芯に生を傾けていきたいとぼんやり考え、26歳で「やきもの」の道に進むことを決めました。まだ26歳の自分には、責任という分別は欠落していたものの、求道的な欲望のまま、ただ一つに傾倒していく重み厳しさを感じることは歩んでいく中で何度もありました。
 陶芸の学校に通っていた頃、光の差し込まない教室で授業の合間を利用して粘土に掛ける釉薬(ガラスのコーティング剤)を作ったり、粘土が変化する573℃という奇妙なまでに定義付されたマテリアルの変化に心を躍らせたり―。お金はありませんでしたが心欲は満たされていたと思います。同期の仲間は、作家活動をするものや全く関わりのない仕事についたものなど様々ですが私は、縁あって「伊勢久」に入社しました。
 それがもう5年前のこと―  
 この5年、大きく目立って何かに没頭してきたわけではありませんが唯一ノートにラフスケッチを描くことはぼちぼちと続けてきました。陶芸の世界に入る前から、雑多に描きなぶることは好き
だったし、少しずつ描き蓄えてきたものは、形や筆圧・線の鋭さを変え、その執着が露骨にみえて自分の欲求に対する有様にも見えてきます。ノートはクロッキー帳に始まり、MOLESKINE、月光荘、つくし文具店、三洋紙業と渡り歩き、今は、MOLESKINE(グリットあり)を仕事用として、つくし文具店の無地のノート(グリットなし)を所謂、「趣味」のノートとして使用しています。
 つくし文具店は東京都国分寺にある小さなお店。美篶堂で製本されクリームの色の帳簿用紙が100ページ―。他のノートに比べて書きやすく、見た目もノートというより本でMOLESKINEと同等に最適なサイズ感です。元々、デザインされ考え抜かれている物や使いやすいものに目がないので、ノートは浮気をしながら変えていくことが一つの楽しみになっています。
 描いたものからイメージを膨らませる制作過程はずいぶん長く寄り道をしながら思考を巡らせることもありますが、一番の醍醐味かもしれません。大げさですが、過程を楽しむことも制作の一部なので静かに続けていきたいと思います。