東海科学機器協会の会報

No.316 2007 夏号

[ サイエンスコーナー ] 私たちの空気は大丈夫?サイエンスする!!「愛・地球博海上周辺及び海上の森における二酸化窒素測定」

日陶科学(株)
佐宗 康浩


1.はじめに 

現在、大気環境については、地球温暖化の主要原因とされている二酸化炭素に全世界の注目が集まりがちですが、地球温暖化だけでなく大気汚染についても確実に地球環境を悪化させつつあることを見過ごしてはなりません。その主要な物質が二酸化窒素です。二酸化窒素はそれ自身も生物の呼吸器系に害を及ぼす有害物質ですが、大気中のような低濃度でも酸性雨をもたらすことによって樹木を枯らし森の重要な機能を衰退させたり、河川湖沼を酸性化して生態系にも影響を及ぼします。また、光化学オキシダントの原因物質で、動物に対しては、眼、喉、呼吸器系を侵し、植物を枯らす等様々の害を及ぼします。なおかつ、二酸化窒素は一定の条件では空気中の窒素が一部酸化されて生成するため、二酸化硫黄などと異なり触媒方式など生成の過程で減少させることが困難なことから近年横ばい状態が続いております。
 さらに厄介なことは、隣国中国から偏西風に乗ってやってくる大気汚染物質の問題です。
 最近、九州や日本海側における光化学オキシダントによる被害が発生していますが、これらは急速に発展する中国から流れてきたことが明らかになってきております。光化学オキシダントのみではく、その原因物質である二酸化窒素やさらに二酸化硫黄も直接、または、黄砂などの粒子状物質に付着して大量に入ってきております。これら大気汚染物質は酸性雨の原因物質でもあり、土壌又は湖沼などを酸性化し、現在の状況が続けば近い将来、広範囲における樹木の立ち枯れが懸念されるところです。
 一昨年、愛知万博(愛・地球博)が開催されましたが、我々は、わが県だけでなく国を挙げての一大イベントであるこの万博の場において国内のみでなく、中国を始めとする諸外国の方々にも二酸化窒素簡易測定法を紹介し、普及していくことは環境新時代と言われる今日、大いに意義深いものと考え、プロジェクトを立ち上げ、会場周辺における二酸化窒素濃度を約半年に亘り測定しました。

2.二酸化窒素簡易測定法について

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(1)天谷式二酸化窒素捕集管(30日間用)の構造 
10_021 同法は二酸化窒素捕集管を測定場所に24時間吊り下げるなどして設置し、同捕集管内に入っているろ紙で大気中の二酸化窒素を捕集するものが通常使われる方法ですが、今回は約半年間という長期間に亘る測定であるため、1回の測定間隔を2週間とし、30日間用捕集管を用い、これを2週間測定場所に設置し、2週間の平均に酸化窒素濃度を測定しました。30日間用二酸化窒素捕集管の構造は図1のとおりです。上記30日間用二酸化窒素捕集管は、1年を通じて大気中の二酸化窒素濃度を測定する場合など長期間にわたる平均濃度を測定する際に便利な方法ですが、24時間法と比べてほとんど知られていません。これは、一般に公開されていないことや、市販品も全くないことがその理由ですが、実はこの方法による二酸化窒素測定精度は非常に高いことが私どもの実験で明らかにされております。

 その詳細については、紙面の都合上、省略させていただきますが、この捕集管はフィルムケースなどを用いて誰でも簡単に作ることができます。

3.二酸化窒素の測定

(1)測定場所の選定
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万博会場周辺において測定場所を選定するにあたり、道路交通や大気の循環性及び広域性などをポイントとして選定した結果、以下の5箇所を測定場所として選定することにしました。
【1】長久手会場北、グリーンロード沿線南側土手
【2】長久手会場北、グリーンロード中央分離帯植込部分
【3】長久手会場北、約40メートル東へ入った草むら内
【4】瀬戸会場南側国道155号線沿線東側土手(雑木林内)
【5】海上の森中心部(民家のある地域)※図3 万博海上及び海上の森周辺における二酸化窒素濃度の測定参照
(2)測定結果平成17年1月30日から同年6月19日までの間、2週間毎の間隔で9回に亘り、二酸化窒素捕集管を測定場所5箇所にそれぞれ5個ずつ取付け、2週間の平均二酸化窒素濃度を測定しました。測定結果は図4のとおりです。

4.測定結果の考察

10_031 図4の第4回目(3/13~3/27)の測定値に注目すると、特にグリーンロードにおいてはその前後の測定値に比べて明らかに低い数値を示しております。これについては、3月18日から万博の内覧会が始まり、そして25日に万博が開催となりましたが、この時期、交通規則が厳しくなるという情報からかグリーンロードから一時的に通行車両が減少したという事実があり、これが主な理由として上げられます。
 第8回目(5/8~5/22)から第10回目(6/6~6/19)の測定値についてはそれまでの測定値と比べ少し低くなる傾向を示していますが、これは5月になって気温が上昇し、上昇気流によって二酸化窒素が拡散されたためと考えられます。
 海上の森中心部の測定値は、他の4箇所の測定値に比べて特に低い測定値を示しております。すなわち空気が非常にきれいであることが一目瞭然わかります。
 これは同測定場所では、数件の民家があるのみで通行車両がほとんどなく、また国道155号線など主要道路からも隔絶した場所にあることがその理由と考えられます。

5.おわりに

 二酸化窒素の測定は、大気の汚れを測る指標として最も有効な方法であると考えます。環境教育の面からも簡単に大気汚染の現状がわかるこのような簡易測定法を普及していくことは大いに意義のあることであると考えます。