東海科学機器協会の会報

No.319 2008 新年号

[ サイエンスコーナー ] 自動体外式除細動機(AED)とは

株式会社ヤガミ 第一事業本部 開発室
清水 智博


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最近、駅のホームや空港、学校など様々な場所で「AED」という文字を目にする機会が増えたのではないでしょうか。「AED」とは、「Automated External Defibrillator」の頭文字をとった言葉で、日本語に訳すと「自動体外式除細動機」となります。
AEDは、少しの勇気で人の命を救うことができる、大切な機械です。いったいどのような機械なのか、ご紹介しましょう。


心室細動と除細動について

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一般に「心臓麻痺」と呼ばれていた心停止の多くは、最初の段階で「心室細動」という状態から始まっています。この「心室細動」とは、何らかの原因で心臓が小刻みにけいれんしたような状態になることです。普段リズミカルに拍動している心臓が心室細動を起こすと、血液を全身に送り出すことができなくなってしまいます。血液の循環がなくなると、4分以内に脳に障害が発生し、同時に心臓自体も回復不能な状態に陥っていきます。もしもこの状態のままで放置されてしまうと、1分経過する毎に社会復帰率が7~10%も低下していくと言われています。

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病院外での心臓停止による突然死は国内で年間2~3万人と言われていますが、その半分以上が「心室細動」(および無脈性心室頻拍)であると言われています。

ここで有効になるのがAEDを用いた「除細動」です。「除細動」とは、心臓に電気ショックを与えることで、けいれん状態になっている心臓の拍動のリズムを正常に戻す操作のことです。このAEDによる除細動は、病院外で「心室細動」を治療することが可能な、ほぼ唯一の方法です。

救命の連鎖

AEDは心室細動を取り除くことができる機械です。しかし、「AEDさえあれば、あとは何もいらない」という解釈は間違っています。呼吸停止・心停止を起こした傷病者に対しては、まず人工呼吸と心臓マッサージから成る「心肺蘇生」を実施しなければなりません。

傷病者を発見して救急車を呼んでも、救急車が現場に到着するまでには約5~6分(全国平均)もの時間がかかります。その間に、現場に居合わせた人々でいかに素早い対応ができるかによって、その後の救命率は大きく変わります。

「救命の連鎖」とは、「迅速な通報」、「迅速な心肺蘇生」、「迅速な除細動」、「医療機関での二次救命処置」の四つの輪のことです。この四つの輪をいかに素早くつなげて、二次救命処置開始までの時間をいかに短くすることができるかが、救急救命の重要なポイントとなります。

AEDの安全性

以前は限られた人以外が「除細動」を実施することは禁じられていました。しかし、平成16年7月に厚生労働省が設置した「非医療従事者による自動体外式除細動機(AED)の使用のあり方検討会」にて出された報告書により、正式に一般の人によるAEDを用いた除細動が可能となりました。

では、もしも善意から除細動などの救命行為を行なったのに上手くいかず、結果的に救命に至らなかったような場合、救命行為を行なった人が刑事責任を問われるようなことはあるのでしょうか?答えは「NO」です。善意による救命行為がたとえ失敗したとしても、救命行為の実施者に責任が問われるようなことはありません。

AEDは人間の体に高圧の電気ショックを与える機械ですから、「危険な機械」という認識を持たれる場合があるかもしれません。しかし、AEDは機械自体が患者の心電図を自動的に解析し、電気ショックが必要かどうかも全てAEDが判断します。つまり、健康な人間に対して間違って電気ショックを与えたり、凶器のような使い方をされてしまったりする心配のない機械です。

AEDを使った救助の手順

下記にAEDを用いた救命措置の流れを見てみましょう。

<傷病者発見>

1.意識の確認、119番通報、AEDの手配

・「大丈夫ですか!?」と傷病者の近くで呼びかけながら肩をたたきます。

・ 反応がなく意識もない場合、「誰か来て下さい!!」と大声で人を集め、「あなたは119番通報をして下さい」、「あなたはAEDを持ってきて下さい」と具体的に指示します。

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2.心肺蘇生法の実施

・ 傷病者の気道を確保し、呼吸をしているかどうか確認します。呼吸をしていない場合、人工呼吸を実施します。

・2回の人工呼吸が終わったら、続いて30回の心臓マッサージ(胸骨圧迫)を実施します。

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<AED到着>

3.AEDの電源を入れる

・AEDが到着したら電源を入れます。電源を入れるとすぐにAEDから音声によるメッセージが流れますので、その指示に従います。

(電源ボタンと本体のフタを開けるボタンが一体になっている機種もあります。)

4.電極パッドを貼る

・ 傷病者の衣服を取り除いて胸を開け、AEDの指示通りに電極パッド2枚を患者の胸に貼ります。(AEDの機種によっては、電極パッドのコードをAED本体に接続する必要があります。)

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5.傷病者から離れる

・AEDが患者の心電図を解析します。その間、誰も傷病者に触れてはいけません。

6.除細動ボタン(ショックボタン)を押す

・除細動ボタンを押す必要があるかどうかは、心電図の解析結果を元にAEDが判断しますので、その指示に従います。

・この場合も、必ず誰も傷病者に触れていないことを確認します。

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7.心肺蘇生法の実施

・ 再び人工呼吸と心臓マッサージを実施します。

8.AEDはそのままにして、救急隊の到着を待つ

・必ずAEDの電源は入れたまま、電極パッドも貼ったままにして、救急隊の到着を待ちます。

・その間も、AEDは患者の心電図状態を定期的に確認し、記録し続けています。AEDからの音声指示が出れば、その都度それに従います。

*詳しい手順はヤガミホームページよりダウンロードして頂くことができます。(http://www.yagami-inc.co.jp/

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訓練の重要性

上記「AEDを使った救助の手順」をご覧頂ければお分かりのように、AEDの電源さえ入れれば必要な手順は全てAEDから音声で指示されますので、全くの未経験者でもAEDを使用することが可能と言えます。

しかし全く経験がないにもかかわらず、緊急の場面で初めて触れる機械の電源を入れることができる人がどれだけいるでしょうか。それ以前に、AEDがいったい何をするための機械なのか、という基本的な知識がなければ、到底使うことはできないでしょう。

さらにAEDは、心室細動や無脈性心室性頻拍といわれる不整脈による心停止については有効ですが、その他の原因による心停止については、有効ではありません。

したがって、AEDは全ての心停止に対して万能ではなく、それに対応するためには、心臓マッサージや人工呼吸などの心肺蘇生法を身につけている必要があります。それらの心肺蘇生法が適切に実施できることが、救命率の向上に重要となります。

適切な心肺蘇生法の取得、適切なAEDの使用方法の取得、そして救命行為に携わる勇気と自信を持つためにも、講習を受けておいた方が良いと言えるでしょう。

救急法の講習は、全国の日本赤十字社および消防などで受講することができますので、お問い合わせ下さい。

おわりに

意識と呼吸を失い倒れている人がいた場合、何が最も重要なことなのでしょう。救急車を呼ぶことでしょうか。AEDが使えることでしょうか。心臓マッサージができることでしょうか。

もちろん全て重要です。しかし、一番重要なことは無関心にならないことです。“何ができるか”を考えることではなく、“何かをしよう”と最初の一歩を踏み出すことが最も重要なことです。

AEDが社会に広がることで、救急救命に対する意識がさらに向上していくことを願います。